2008年6月にApple社が唐突に次期OSでの対応を発表して話題になった「OpenCL」。その全貌がついに明らかになった。それは,「このままではソフトウエア開発者にソッポを向かれる」というプロセサ・メーカーらの危機感が凝縮されたものだった。マルチコア化が進み,GPUはグラフィックスの枠を超え,新たな構造のプロセサも続々と登場する。プロセサ混沌の時代に現れたOpenCLはソフトウエア開発者と機器メーカーにプロセサ選択の自由を与えようとしている。

 2008年6月,米Apple Inc.は同社のパソコン用OS「Mac OS X」の次期版「Snow Leopard」(開発コード名)で「OpenCL(open compute language)」に対応すると発表した。突如として名前が挙がったOpenCLはさまざまな憶測を呼んだ。その詳細がなかなか明らかにならなかったからだ。

 2008年12月10日,Apple社らの提案を受けてOpenCLの策定を進めてきた標準化団体のKhronos Groupが,OpenCLの仕様を公開した。仕様の策定に携わった米Intel Corp.のPrincipal Engineer,Intel Applications Research Labs,Corporate Technology GroupのTim Mattson氏は「6カ月間というのは歴史に残るスピードだ。危機感を共有するライト・パーソンが集まり,懸命に作業した結果だ」と胸を張る。米 Advanced Micro Devices, Inc.(AMD社)のSystem Architect, Advanced Technology DevelopmentのMike Houston氏によれば,プロセサやソフトウエア開発ツールのメーカーなどの主要な技術者が,2時間の電話会議を週に2回繰り返してきたという。「3年を要した『OpenMP』の仕様策定と比べると,今回のスピードが驚くべきものだったことが分かるだろう」(Houston氏)。

 全貌を現したOpenCLは,パソコンや高性能コンピューティング(HPC)分野にとどまらず,デジタル民生機器などの組み込みシステム分野のソフトウエア開発にも広く影響を及ぼすインパクトを持つ。ソフトウエア開発者や機器メーカーに,プロセサ選択の自由をもたらすことになる。