【開発の鉄人 現場をゆく】欲しいから造る

 高名な登山家が,なぜ山に登るのかと聞かれて,そこに山があるからだと答えたのは有名な話。しかしこの話は,そう単純ではない。この登山家,ただ目の前にある山を片っ端から登っていたわけではない。自分が登りたい,どうしても挑戦したい,そういう山に登ったのである。誰にも登頂されていない山に登ることや,困難な登頂ルートを切り開くことが,その登山家にとっては最高の喜びだったのだ。もっと言えば,困難であればあるほど頂上に立ったときのうれしさは増大する。それを得るために山に登ったのである。「征服」というくらい,登頂困難な高峰登山には,難事に打ち勝って達成感を得る,そういう魅力がある。(以下,「日経ものづくり」2008年12月号に掲載)