環境に悪いというイメージから、日本ではほとんど姿を消したディーゼル乗用車。そうした状況がこの秋から変わる。日産、三菱がクリーンディーゼル搭載の乗用車を相次いで商品化するほか、2009年にはホンダも商品化する計画だ。ただし、消費者の関心はいま一つ。ガソリン車に比べて価格が大幅に上昇するのもネックだ。本格的な復活には、消費者の認知度を高めるとともに、コストを低減する努力が必要になる。
国産車では国内市場から姿を消していたディーゼル乗用車に復活の兆しが見えてきた。日産自動車は、日本の「ポスト新長期規制」を達成した初めてのディーゼル乗用車「エクストレイル20GT」を9月18日から発売すると発表した(図)。日産自動車に次いで、三菱自動車も、現行の新長期規制に適合す るディーゼルエンジンを搭載した「パジェロ」をこの秋に発売する。
日産自動車の「エクストレイル20GT」
2008年9月に発売した。日本の「ポスト新長期規制」に初めて適合した。
最新エンジンはクリーン化の要件を満たしつつ出力・燃費を向上させている。そのために噴射圧力は高まる方向にあり、200MPaのエンジンも商品化されている。クリーン化と燃費の向上に効果がある低圧縮比化では可変バルブタイミング機構により15以下を実現したエンジンが登場。後処理技術では水素でNOx(窒素酸化物)を還元する技術が実用化された。
今後世界の乗用車用ディーゼルエンジンは、ガソリン車並みのクリーン度を求める日本のポスト新長期規制、米国のTier2Bin5、欧州のEuro6などの厳しい規制に適合することが求められる(図)。それと同時にCO2( 二酸化炭素)削減要求に対応した燃費改善や、商品力向上のための高出力化も必要だ。
ディーゼル乗用車の排ガス規制値
欧州の現行規制であるEuro4規制に対して、日本のポスト新長期規制、米国のTier2Bin5、欧州のEuro6規制は、いずれもパティキュレート、NOxの規制値が大幅に強化される。
燃費と商品力の向上を狙い、高出力化が進む最新のディーゼル。その高出力化を可能にしているのがターボの進化だ。タービン側の流路を可変にしたターボはすでにかなり浸透し、次の進化として、コンプレッサ側の可変化や大小二つのターボを使う2ステージ化も始まっている。日本でも今後2ステージ化が進むとの予測もある。
Part2でも触れたように、最新のディーゼルエンジンでは燃焼温度を下げてNOxの排出量を減らすために、大量のEGRを実施している。吸気中の排ガスの比率が増えるので、そのままでは吸入空気量が減り、噴射できる燃料も減って出力が落ちてしまう。これを防ぎ、クリーン化と高出力化を両立するには、より大量の空気を送り込めるターボチャージャが必要だ。
可変ノズルターボの基本構造
タービンの周囲に配置したノズルのベーン(羽根)の角度を変化させ、低速では流路を絞り込んで少ない空気量でも流速を確保してターボの立ち上がり特性を向上させ、中高速域では流路を広くして抵抗を減らす(三菱重工の例)。
ガソリンエンジンより重くなるディーゼルエンジン。少しでも軽量化するために重要なのがシリンダブロックの材料選択だ。ただし、日本と欧州で選択は異なる。国内メーカーはAl(アルミニウム)合金製、欧州では鋳鉄を採用するところが多い。そうした中で、部品共通化を目的に国内でも鋳鉄を採用する例も登場した。
ガソリンエンジンよりも大幅に高い燃焼圧やトルクに耐えるために、ディーゼルエンジンは各部の強度を高める必要がある。いきおい、ガソリンエンジンに比べて構成部品は重くなる。後処理装置や燃料噴射装置の質量がかさむこともあり、日産自動車「エクストレイル20GT」では同等仕様のガソリン車に対して130kgほど重くなっている。
トヨタ自動車の「ランドクルーザー200」(海外仕様車)
新型ディーゼルエンジンの「1VD-FTV」を搭載する。