【直言】ものづくりを矮小化してはいけない 今必要なのは良い流れをつくること

 そもそも「ものづくり」とは何か。広辞苑第六版では, 「ものつくり」は「農作」「小正月の行事」などとある。大辞林には項目がない。つまり,ものづくりの確定的な定義はない。英語の定訳もない。manufacturingもmaking thingsも,ぴったりの訳とは思えない。
 このように,ものづくりは現場での言い回しから自然発生した概念で,辞書にはない。その意味を知るには,実際の用法に当たるしかない。
 一般には,製造業の生産現場で物を成形・加工することをイメージする人が多いようだ。NHKなどが強調するのも,映像として分かりやすい,生産現場の「匠の技」である。むろんそれも,ものづくりの重要な要素だ。(以下,「日経ものづくり」2008年6月号に掲載)

藤本 隆宏
ふじもと・たかひろ
1979 年 東京大学経済学部を卒業後,三菱総合研究所に入社。米Harvard University研究員,東京大学経済学部助教授,同教授などを経て2004年から現職。『ものづくり経営学─製造業を超える生産思想』(光文社)など著書多数。