【特集】炭素繊維を使いませんか。

日本が世界需要の7割を占め,圧倒的な競争力を誇る炭素繊維に今,さまざまな分野から熱い視線 が注がれている。例えば航空機では,安全航行に直結する1次構造部材に炭素繊維を本格採用し始めた。自動車分野では,トヨタ自動車が炭素繊維を大量に用いたコンセプトカーを発表,量産車への採用が俄然,現実味を帯びてきた。繊維メーカーも増産を決めた。これほど炭素繊維が注目されるのは,高いコストに替えて余りある大きな「果実」が得られるからだ。 (高野敦,荻原博之,藤堂安人)

【特集】炭素繊維を使いませんか。Part1 お薦めのワケ

 トヨタ自動車は10%,日産自動車は15%─。最近,自動車メーカー各社が車体軽量化の目標値を競うように掲げている。その背景にあるのは,世界各地で強化される燃費および二酸化炭素(CO2)排出量の規制だ。
 日本では,2015年度までに乗用車の燃費を平均値で16.8km/L以上に高めなければならない。2004年度の実績は13.6km/Lだったので,ここから23.5%の改善が求められることになる。
 欧州連合(EU)域内では,CO2排出量に関して2012年までに120g/kmに下げねばならないという方向性で,欧州委員会を中心に議論が進められている(図)(以下,「日経ものづくり」2008年4月号に掲載)

図●CO2排出量の少なさを訴える展示(a)とCO2排出量の推移(b)
図●CO2排出量の少なさを訴える展示(a)とCO2排出量の推移(b)

【特集】炭素繊維を使いませんか。Part2 自動車を劇的に軽く

 2008年3月,足掛け5年にわたる長丁場を終えたプロジェクトがある。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主導し,東レと日産自動車が参加した「自動車軽量化炭素繊維強化複合材料の研究開発」だ。
 このプロジェクトの目的は,炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製の自動車部品に関して,製造サイクルタイムを短縮することと,基本性能や衝突安全性,リサイクル性を検証すること。パネル部材と構造部材への適用を想定しており,東レや日産自動車がドアパネルやプラットフォームといった部品を実際に試作した(図)。(以下,「日経ものづくり」2008年4月号に掲載)

図●自動車におけるCFRPの想定用途
図●自動車におけるCFRPの想定用途

【特集】炭素繊維を使いませんか。Part3 航空機を安全に軽く

 仏A i r b u s 社の「A 3 8 0」と米Boeing社の「787 Dreamliner」。こうした最新鋭旅客機の1次構造部材には,CFRPが35tも使われる。CFRPの大量採用時代が到来したのだ。787については機体主要構造部の質量の約50%,A380でも約25%がCFRPとなった(図)。CFRPの大量採用を可能にしたのは, 「大型部材の一体成形」や「層間剥離問題」といった技術課題を解決できたためである。(以下,「日経ものづくり」2008年4月号に掲載)

図●「787」における各種材料使用状況
図●「787」における各種材料使用状況

【特集】炭素繊維を使いませんか。Part4 一般産業を変える

 ここまで見てきたように,自動車分野や航空機分野の盛り上がりで俄然,世間の耳目を集め始めた炭素繊維。しかし,1960年代の誕生直後から最近の本格拡大期を迎えるまでの揺籃期を支え,今でも炭素繊維需要の約半分を占めるのが「一般産業」分野だ。釣りざおやゴルフクラブのシャフト,テニスラケットをはじめとするスポーツ用品のほか,天然ガス車向けのCNGタンクに代表される圧力容器,さらには産業機械や土木建築といった用途で地道に実績を重ねて性能や信頼性の高さを証明し,今日の発展の礎を築いたのである。(以下,「日経ものづくり」2008年4月号に掲載)

図●炭素繊維を使った鮎釣り用のさお「銀影競技」
図●炭素繊維を使った鮎釣り用のさお「銀影競技」

【特集】炭素繊維を使いませんか。Part5 リサイクルも万全に

 炭素繊維メーカーが,繊維や炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル技術の開発に本腰を入れ始めた。業界団体の炭素繊維協会が,福岡県大牟田市に建設した実証リサイクルプラントの試験運用を2008年4月に開始するのだ(図)。
 これまで,CFRPの廃棄物(使用済みの成形品や製造段階の不良品)は,ほとんど埋め立てられていた。ここに来て炭素繊維メーカーがリサイクル技術の開発に取り組むのは,リサイクル可能なことが自動車で本格採用されるための必須条件だからである。(以下,「日経ものづくり」2008年4月号に掲載)

図●炭素繊維協会によるリサイクルプラントの概要
図●炭素繊維協会によるリサイクルプラントの概要