「先生なにやってんすか」「野尻仕事しろ」─。ニワンゴが運営する動画共有サイト「ニコニコ動画」にこんなコメントが飛び交う動画が投稿されたのは,2007年11月25日のことだった。画面は慣れた手つきで電子工作キットを組み立てる様子を映し出している。そして,完成したキットの筐体に「初音ミク」のイラストを張り付けると,「世界にただ一つの『携帯みくみくプレーヤー』の完成です」と誇らしげに宣言された。 動画の投稿者は,現役バリバリのSF作家である野尻抱介。2007年8月31日の発売以来,ニコニコ動画に吹き荒れる「初音ミク祭り」を横目に,居ても立ってもいられなくなった。「初音ミクの歌声とイラストに,一瞬で心を奪われた。自分も何かやりたい」。とはいえ,音楽やイラストはあまり得意ではない。そう考えた野尻が思い付いたのが,趣味の電子工作を生かした動画の投稿であった。