【直言】ものづくりを要素に分解するは愚

 「ものづくり」とは,よく考えてみると不思議な言葉である。物流を「ものはこび」とは言わない。小売りも「ものうり」とは言わない。それなのに製造だけ,ものづくりなのである。
 なぜだろうか。新年を迎えるに当たって,原点に立ち返って考えてみたい。
 最終的には人と物の特別な関係に突き当たる,と考えている。自然物,人工物を問わず,物は単に物質的な存在ではなく,そこには人の心や命が宿っている─。こうした考え方は古く,遠くギリシア時代の哲学者ヘラクレイトスの思想の中に既に見られる。東洋,特に仏教では,物は合掌の対象だった。(以下,「日経ものづくり」2008年1月号に掲載)

ときわ・ふみかつ
ときわ・ふみかつ
1957年に東京理科大学・理学部化学科を卒業,花王に入社。米Stanford University留学,理学博士取得(大阪大学),研究所長,取締役を経て,1990年に社長,1997年に会長。『モノづくりのこころ』『反経営学の経営』(共著)など著書多数。