『日経エレクトロニクス』,2007年12月31日号に掲載した「NARTEのEMC模擬試験例題」の解答を掲載します。問題は,NEプラス「EMC設計/対策の実践手法 構想,設計から対策まで EMC技術の手順と勘所」のP31ページにあります。出題者および下記の解答の著者は,情報通信研究機構 情報通信セキュリティセンター 専攻研究員の瀬戸信二氏です。
[問題1]電界強度計での測定値が97dBμV/mであった。フィーダの損失が2.5dB,途中に挿入された減衰器が20dB,空中線利得が-10dBとすると,実際の電界強度値はいくらか。
1)0.07V/m 2)2.99V/m 3)29.9V/m 4)7.0V/m
[問題1]の解答:2)
実際の電界強度値(受信電界強度)をE(dBμV/m)とすると
E+(-10)-2.5-20=97
∴ E=129.5(dBμV/m)
129.5(dBμV/m)
=9.5(dBμV/m)+120(dBμV/m)
=2.985×106(μV/m)
≒2.99(V/m)
【訂正】記事掲載当初,問題1の文中で「減衰器が10dB」と記載しておりましたが,正しくは「減衰器が20dB」です。お詫びして訂正いたします。記事は修正済みです。
[問題2]出力が2Wの無線送信機がある。最大許容入力が15dBmのスペクトラム・アナライザ(スペアナ)を使用してこの送信機の占有帯域幅を測定したい。
(1)送信機とスペアナの間に挿入する減衰器の最低の減衰量はいくらか。
1)3dB 2)6dB 3)9dB 4)12dB 5)18dB
(2)減衰器の最小許容電力はいくらか。
1)0.5W 2)1.0W 3)2.0W 4)5.0W 5)10.0W
(3)減衰量が,それぞれ1,2,3,6,10dBで,許容電力が0.5Wの減衰器がある。使用できるものはどれか。
1)1dB 2)2dB 3)3dB 4)6dB 5)10dB
[問題2]の解答
(1)所要減衰量:5)
「dBm」を「W」に換算すると,
0dBm=1mW
送信出力をdBmで表すと,
2W=2000mW=33dBm
(10・log102000=33)
このため,所要減衰量は次のようになる。
33dBm-15dBm=18dB
(2)減衰器の許容電力(消費電力):3)
送信機の出力が2Wであるから必要とされる許容電力としての解は,直感的に3)である。これを以下に順序を追って計算する。この減衰器では,「2Wを18dB減衰させる」。18dBの減衰ということは,近似で考えると約20dBの減衰になり,2Wの電力を0.01倍(正確には0.016倍)に減衰することになる。減衰分の2Wは減衰器の中で消費されることになる。すなわち,許容電力(消費電力)は2Wになる。
(3)各デシベル値での電力損失:1)
「1dB」の場合。1dBの減衰は0.79倍なので,「2Wを1dB減衰」するときは,
2W×(1-0.79)=2W×0.21=0.42W
の電力損失になる。
「2dB」の場合。2dB減衰は0.63倍なので,「2Wを2dB減衰」するときは,
2W×(1-0.63)=2W×0.37=0.74W
の電力損失になる。3)~5)は,2)よりも電力損失が大となるから,使用不可である。
[問題3]定K型低域フィルタの素子の諸元を求めよ。ただし,遮断周波数は1kHz,インピーダンスは600Ω,減衰の傾斜は24dB/oct.とする。
1)L=0.0955H,C=0.265μF
2)L=0.955H,C=2.65μF
3)L=0.0955Hおよび0.191H,C=0.530μFおよび0.265μF
4)L=0.191H,C=0.530μF
5)L=0.191H,C=0.265μF
[問題3]の解答:3)
問題では,減衰の傾斜は「24dB/oct.」とある。「1段のLCフィルタ」では「12dB/oct.」であるから,この場合に必要とする区間数は「2段」である。
定K型フィルタの基本形は,上図の破線で切った各区間である。区間ごとにLとCを求めると,次のようになる。
Lk=R/{2πfC}=600/{2π×1000}=0.0955(H)
Ck=1/{2πfC・R}=1/{2π×1000×600}=0.265(μF)
「2個直列のインダクタンス」は1個に統合でき,「2個並列Cのコンデンサ」も1個に統合できる。上図のLとCをまとめると(「2個直列のインダクタンス」と「2個並列のコンデンサ」をそれぞれ統合すると),以下のように2段の定K型フィルタになる。
[問題4]広帯域の雑音放出(エミッション)の測定において,コヒーレントなエミッションの場合には,測定値は受信帯域幅の「20・log」に比例し,ノンコヒーレントなエミッションの場合は受信帯域幅の「10・log」に比例するという。これは正しいか。
1)正しい 2)間違い
[問題4]の解答:1)
コヒ-レントなエミッションとは,「同相の雑音(信号)」または「根源を同一とする発生源の雑音(信号)」と考えるとよい。コヒーレントでない雑音の代表はホワイトノイズのような雑音であり,この場合の測定値は受信帯域幅の「10・log」に比例する。コヒーレントである雑音の代表はインパルス性の雑音であり,この場合測定値は受信帯域幅の「20・log」に比例する。
[問題5]機器の外装(金属ケース)としての電磁シールド性能を決定する要因は,次のどれか。
1)周波数
2)到来波のインピーダンス
3)シールド材料の特性
4)シールドのすき間と数
5)前記のすべて
[問題5]の解答:5)
『日経エレクトロニクス』,2007年12月31日号NEプラス「EMC設計/対策の実践手法 構想,設計から対策まで EMC技術の手順と勘所」のP26ページの表1を見ると,周波数とシールド材の特性(透磁率,導電率,板の厚さ)は,電磁シールドの反射損失や吸収損失に影響することが分かる。また,到来波のインピーダンスは,反射損失を決定する要因である。このインピーダンスは,遠方界(平面波)の場合は「120π(Ω)=377(Ω)」となるが,実用的には(電磁シールドを目的とする場合には,雑音の発生源からシールド部位までの距離が短いため)通常は不定であることが多い。また同ページの図19を見ると,シールドのすき間も電磁シールドに影響することが分かる。よって,これらはすべて電磁シールド性能を決定する要因である。
[問題6]「縦・横・高さ」が,それぞれ「5m×4m×3m」の良導体で作られた直方体の電磁シールド室がある。このシールド室の最低共振周波数を求めよ。
1)37.5MHz 2)25MHz 3)48MHz 4)良導体であるから共振は発生しない
[問題6]の解答:3)
空洞共振器の共振周波数の式は,下記の通りである。
最低共振周波数は,長い2辺に対しての1次の共振であるから,
f(MHz)=150×[{1/52}+{1/42}]0.5=48(MHz)
になる。
[問題7]図は,ある素子(増幅器)の入出力特性を示すものである。この図から,「3dBコンプレッション」の点はどれか。
1)A 2)B 3)C 4)D 5)E
[問題7]の解答:5)
実測値(experimental values)が,期待される直線的増加(expectation of linear part of data)から「3dB」外れた点を「3dB compression point」とよぶ。なお,この出題では「3dBコンプレッション」の点を求めているが,増幅器の性能を表現する場合は「1dBコンプレッション」を使うことが多い。
[問題8]実効無指向放射電力(EIRP:effective isotropic radiated power)が1kW,空中線利得が3dBiとして,周波数が30MHzのとき,主ビームにおいて距離200mでの電力密度はいくらか(伝搬路は自由空間とする)。
1)0.2μW/cm2 2)0.4μW/cm2 3)2mW/cm2 4)4mW/cm2 5)20μW/cm2
[問題8]の解答:1)
「実効放射電力」は,「空中線(アンテナ)の指向性(利得)」を含めた数値であるから,この「3dBi」は計算に含めない。
「1kW(=109μW)の電力」が無指向的に拡散するとき,「半径200m(2×104cm)」の(空間上の)球面における電力密度を求めればよい。すなわち
電力密度=電力/球面の表面積=0.2(μW/cm2)
[問題9]送信空中線から50m離れた距離での電力密度が20mW/cm2であった。5mW/cm2となる距離はいくらか(伝搬路は自由空間とする)。
1)25m 2)75m 3)100m 4)200m
[問題9]の解答:3)
電力密度(受信電力)は,「1/(距離)2」に比例する。
[問題10]送信空中線から1kmの地点での電界強度が5V/mであった。2kmの地点での電界強度はいくらか(伝搬路は自由空間とする)。
1)10V/m 2)5V/m 3)3V/m 4)2.5V/m 5)1V/m
[問題10]の解答:4)
受信電界強度は,「1/距離」に比例する。