日経ものづくり 直言

新品は,未完成にすぎない
これからの「完成」の意味を問う

森 政弘●東京工業大学名誉教授

 新品を購入して使い始める。このときが100点。使用するにつれて,汚れ,傷付き,摩耗して90,80,70と点が下がっていくと,一般には考えられているようである。
 ところが,このような価値基準を持っていたのでは,21世紀は乗り越えられそうにないことが,分かってきた。
 ところで,人は完成状態を理想状態と認めるのが常である。だから努力して,完成へ一歩一歩近づいていく。
 だが,完成に達した後はどうなるのか。普通はそこで,完成状態を維持しようとする保守姿勢が顔を出す。しかし,すべては常に変化する。
 無常は真理だから,人為的保守などは太刀打ちできるレベルのものではない。してみれば,完成直後からの変化は,衰退しかないことになってしまう。
 つまり,向上と完成との矛盾である。進歩向上が常なのならば,完成ということがあってはならないのが理であるが,完成こそが向上の目標ではある。(以下,「日経ものづくり」2007年11月号に掲載

日経ものづくり 直言
もり・まさひろ
1927年生まれ。1950年に名古 屋大学工学部電気学科を卒 業後,東京大学助教授,東京 工業大学教授を歴任。専門は ロボット工学。ロボットコンテ ストの生みの親としても有名。 『ロボコン博士のもの作り遊 論』など著書多数。

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