【特集】車載ソフト巨大化に立ち向かう

【Part1】限界にきた開発

クルマ1台に搭載するソフトウエア量は20年で1000倍に増えた。ソフトウエアを組み込むECU(電子制御ユニット)の数も最大100個程度に達している。 自動車メーカーはECUの基盤ソフトを標準化して、車載ソフト開発を効率化し、ECU数を減らす方針だ。しかし、基盤ソフトの標準化は、部品メーカーの売上高を減らす可能性がある。ソフトウエア開発の効率化を図りつつ、部品メーカーの競争力を高めることが、自動車メーカーに求められている。

 クルマのエレクトロニクス化が進展するにつれて、ソフトウエアの開発量やECUの数が急増している。

 日産自動車の場合で、クルマ1台に搭載するソフトウエア量は2005年で約700万行。この20年間で1000倍に膨れ上がった(図)。

 しかも、この勢いは衰えそうにない。「次々と新機能が追加されるので、当面はソフトウエア量の増加を止められない」(日産自動車技術開発本部長の篠原稔氏)からだ。

 トヨタ自動車BR制御ソフトウェア開発室体制企画グループ長の石井聡氏も「現在のソフトウエア開発量は多すぎる」と見る。自動車業界は今、根本的なソフトウエア開発の効率化が求められているといえる。

図●クルマ1台当たりのソフトウエア量(日産自動車の場合)
図●クルマ1台当たりのソフトウエア量(日産自動車の場合)
1980年はECUのソフトウエアだけで2000行程度だった。ソフトウエア量の多いカーナビが登場したことで、2000年には制御系ECUと合わせて200万行にまで増えた。20年で約1000倍に膨れ上がった。今後もソフトウエア量は増え続ける。

【Part2】走行制御系の標準化

トヨタ自動車は独自のソフトウエアプラットフォームを導入し、異なる部品メーカーのECUを統合した。アイシン精機はボディ系、日産自動車も安全系の統合制御ECUの搭載を計画している。ホンダはプラットフォーム導入が自動車メーカーの競争力を左右すると見ており、対策を練っている最中だ。「ソフトウエアはビジネスにならない」という声は多いが、売上高を伸ばしてきた部品メーカーもある。部品メーカーは、ソフトウエアプラットフォーム導入によるECU統合を受け入れる覚悟を決めてきている。

トヨタ自動車:「まずは安全系から導入した」

 トヨタ自動車は2007年春にソフトウエアプラットフォームの開発に取り組む「BR制御ソフトウェア開発室」を開設した。BRはビジネスレボリューションの略。室長は社内でソフトウエアプラットフォームの導入を提案した電子技術部長の林和彦氏が兼務する。

 同社は林氏の提案をベースにして、車内のECUを「安全」「パワートレーン」「ボディ」「マルチメディア」の4群に分けて、それぞれの群の中でECUの統合を進めている。

 導入第1弾として「レクサスLS460」で、安全系のソフトウエアプラットフォームを採用した。「一番難しい安全系から手を付けた。今後残りの3群に着手する」(BR制御ソフトウェア開発室体制企画グループ長の石井聡氏)との方針だ。石井氏は、ボディ系とマルチメディア系のECUは性格が異なるため、安全系と同じプラットフォームは適していないと主張する。

図●トヨタ自動車が名古屋大学と開発中の「マルチメディア系OS」
図●駐車支援システム用ECU(アイシン精機)
デンソーの超音波システム用ECUをアイシン精機の駐車支援システム(IPA)用ECUに統合した。

【Part3】次のターゲットはカーナビ

自動車メーカーはこれまで、カー・ナビゲーション・システムの製造と開発をカーナビメーカーに任せてきた。カーナビメーカーごとにシステムが異なるため、自動車メーカーは独自の機能の追加にコストがかかっていた。このため自動車メーカーの中には、カーナビOSに相当するマルチメディア系OSを開発する動きも出てきている。マルチメディア系OSは、カーナビメーカを越えたアプリケーションの再利用を可能にする。カーナビは今後、クルマの中のアプリケーションの一つとして位置付けられることになりそうだ。

トヨタ自動車:「マルチメディア系OSを共同開発」

 トヨタ自動車は名古屋大学と共同で、UNIXをベースとしたマルチメディア系OSを共同開発している(図)。両者はこの新OSを2010年に実用化する計画で、カーナビメーカーや自動車メーカーに採用を働きかける。

 カーナビメーカーの壁を越えてマルチメディア系OSが採用されれば、アプリケーションに対するインタフェースが標準化され、アプリケーションソフトの追加が容易になる。

 また、一度開発したアプリケーションを別のカーナビメーカーの製品に再利用できるようになる。

 マルチメディア系OSの上では、カー・ナビゲーション・システムやテレビ、ラジオ、テレマティクスサービス(車載情報サービス)、などのアプリケーションが作動する。

図●トヨタ自動車が名古屋大学と開発中の「マルチメディア系OS」
図●トヨタ自動車が名古屋大学と開発中の「マルチメディア系OS」
トヨタ自動車はマルチメディア系OS、名古屋大学はOSの連携機能を中心に担当する。