日経ものづくり 事故

駅舎に突っ込んだ暴走列車
自動列車停止装置に重大な不備

駅舎の外壁が損傷し,外に向かって大きく膨らむ。その一部からは,斜めに傾いたエレベータ が突き出している(図)。かくて凄せいさん惨な舞台となったのは,土佐くろしお鉄道の宿毛線終端駅 である宿毛駅。2005年3月2日,3両編成の下り特急列車「南風17号」が同駅1番線の線路 終端に設けてあった車止めを越え,駅舎のエレベータに突っ込んだのである。

 事故を起こした列車は,JR四国所属 の2000系ディーゼルカーだった。その 日,JR四国の土讃線高知駅を出発した この列車は窪川駅に到着し,土佐くろ しお鉄道の運転士に引き継がれた。 そして,窪川駅から土佐くろしお鉄道 の中村線中村駅を経由し宿毛線宿毛 駅に向かったのである。

 列車は,途中の平田駅を定刻の20 時35分に出発した。土佐くろしお鉄道 によれば,平田駅を出た特急列車は通 常,宿毛駅の約2km手前にある聖ヶ丘 トンネル内の上りこう配を118km/hの 速度で,続く同トンネル内の下りこう配 を113km/hの速度で運行し,トンネル を出たら惰行運転をする。そして,宿 毛駅の隣の通過駅である東宿毛駅付 近から常用ブレーキを操作して減速 することになっている。ところが,その 日は違っていた。最後部の3両目に乗っ ていた車掌が次のように証言する。 「特急列車は通常,聖ヶ丘トンネルを 出る手前でブレーキをかけるのに,こ の時にはかからなかったので少しおか しいと思った」

 終端の宿毛駅が近づいてくる。そ れなのに,列車のスピードに落ちる気 配がない。


図●特急列車が突っ込んだ,土佐くろしお鉄道宿毛線宿毛駅の駅舎
外壁が外に向かって大きく膨らみ,斜めに傾いたエレ ベータの一部が外壁を破って突き出ている。