日経ものづくり 多視済済

鯱を支える技術が天空を舞う

 天守閣の屋根で1対の鯱が輝く。 しかしこの鯱,「その総高八尺三寸, その廻り六尺五寸,近付いて見れば 今更らに鯱の見事さには驚かれる」 (国枝四郎,『天主閣の音』)という名古 屋城のそれとはだいぶ趣が違う。どこ となくユーモラスな表情には,失礼な がら迫力がない。だが,それも無理は ないこと。何しろこの鯱,この写真が ほぼ実寸大なのだ。もちろん,天守閣 の守り神として作られたものでもない。

 これは,「第18回マイクロマシン/ MEMS展」で,三菱電機が披露した もの。同社は,あるコーティング技術を アピールすべく,この鯱を製作した。 ステンレス鋼SUS304をワイヤ放電加 工で切り出したものを母材とし,全体 を金めっきで覆っている。

 注目すべきは,厚さ2.2mmと薄いも のが,鯱本来の姿勢で立っていること だ。その理由は,底面のコーティングに ある。非磁性のSUS304にコバルト(Co) の皮膜を形成して磁性を持たせ,磁 石で直立させているのだ。 このコーティング技術「MSCoating」は, こうした狭い範囲に均一に,場合によっ ては厚く成膜することを得意とする。