日経ものづくり2007年9月号
特集

持続なき復活

日産車の現場に灯る黄信号

2007/08/28 15:55
日経ものづくり 特集

瀕死の状態から復活を遂げた日産自動車。ところが,クルマづくりの根幹を成す部品を調達する現場から,今後の成長を不安視する声が上がっている。日産とサプライヤーの連携が崩れ,その影響が日産や日産系のティア1(1次部品メーカー)の技術力にも現れかねない状況にある。持続的な成長を目指すため,日産は復活に導いたかつての施策からの軌道修正が必要なのではないだろうか。そして,このことは日産だけでなく,長い不況を経験した多くの日本メーカーにも当てはまるものではないか。本誌は,日産側に選ばれて現在同社と取引中であり,かつ他の自動車メーカーにも部品を納入しているサプライヤーや,日産の役員,元日産の幹部,カルソニックカンセイの技術者など,日産や日産系のティア1の現状をよく知る人物に取材。日産車を造るサプライヤーから見た日産周辺が現在抱える問題と,復活を持続させるためのカギが何かを探った。(近岡 裕)




危機の本質

「日産復活」の裏に潜む問題
サプライヤーとの連携に疑問符

 2006年度(2007年3月期)に日産自動車(以下,日産)は,現共同会長兼社長であるカルロス・ゴーン氏がトップに就任して以来,初めてとなる減益決算を経験した(図)。必達目標であるはずの「コミットメント」の達成も,すべて1年間先送りにすると発表。この状況をゴーン氏は,復活を遂げて成長軌道に入った日産が「壁に直面しているだけ」と説明している。
 だが,本当にこのまま成長軌道を進めるのか。実は,不安要素がある。日産の現場力が低下しているという声が,さまざまなところから上がっているのだ。日産リバイバルプラン(NRP)で同社は大幅なコスト削減を実行し,また一部の技術を外に出した。倒産の危機から緊急避難するためには不可欠な判断だったのだろう。ところが今,そのしわ寄せに現場が耐えきれなくなりつつある。その結果,クルマの総コストの6〜7割を占める部品を造り,日産に納めるサプライヤーとの関係が悪化に向かっている。


図●日産自動車の業績の推移
倒産寸前といわれた状態から奇跡的な「V字回復」を遂げたと発表されたが・・・。




連携に変調

効率的なはずが現場から距離感
数字をめぐって揺らぐ信頼

 危機に瀕していた日産自動車(以下,日産)を再建するために,日産が打ち出した改革の柱は購買(調達)コストの削減だ。これを実現するために,ゴーン氏はサプライヤーに部品価格のディスカウントとスピードアップの二つを強く要請した。日産の子会社で日産系最大のティア1(1次部品メーカー)であるカルソニックカンセイ(以下,カルソニック)のある技術者は,「ゴーン氏が来てから,コスト削減とスピードが特に厳しくなった」と証言する。
 ところが,日産がサプライヤーに与えた負担が限界を超え始めた。そして,日産車を構成する部品の実際の現場であるサプライヤーには今,さまざまな問題が発生している。その問題は,日産を頂点とするサプライヤーの階層の下に向かうほど深刻だ。


図●カルソニックカンセイ
日産の子会社で同社系最大のティア1。




混乱の逆流

グループ内の意思疎通にも課題
発注遅れが「目立つ」という指摘も

 サプライヤーがこれまで受けてきた厳しいプレッシャーの影響は今,日産自動車(以下,日産)や日産系のティア1(1次部品メーカー)の現場にも逆流しつつあるようだ。サプライヤーからはこんな言葉まで漏れてくる。「このままでは,日産の生産ラインが止まるかもしれない」。

あるサプライヤーの「反乱」
 こうした声が上がるのは,実はサプライヤーの「反乱」が既に現実に起きているからである。それは次のような経緯で発生したという。
 ティア2(2次部品メーカー)であるI社は,日産系のティア1であるカルソニックカンセイ(以下,カルソニック)と長年取引してきた。ところが,2004年に集中発注を実行するためにカルソニックが行ったサプライヤーの絞り込みにより,ティア2として取引する「指定メーカー」から外れてしまった。


図●「スカイライン」に搭載したコックピット・モジュール
日産とカルソニックはこうした部品のモジュール化に力を入れている。




いすゞの場合

再建のカギはコスト削減の支援
内製技術の喪失が弱体化を招く

 日産自動車(以下,日産)の復活は本物なのだろうか。同社は現在,体質的に非常に脆弱であると私は見ている。
 仏Renault社からやって来て日産を率いることになったカルロス・ゴーン氏は,1999年に「日産リバイバルプラン」を打ち出した。その手法は工場を閉鎖したり,社員をリストラしたりすることで前倒し金をとことん大きくし,翌年から大幅な固定費の削減を実現して利益を捻出した。これが日産の「V字回復」だと考えている。
 私が日産の復活を疑問視し始めたのは,日産が3年計画のリバイバルプランを2年で終了したと発表した時だ。営業利益が4892億円に達した同社を見ながら,「これは危ない」と思っていた。というのは,日産の中でコスト削減活動を担当している社員のやり方を知ったからだ。「これは本当のコスト削減とは言えない。そのうち息切れするぞ」と。(VPM技術研究所の佐藤嘉彦氏)





新日本流ものづくり

「競争主義的チームワーク」で勝負
情報の共有と技術の協力で共に勝つ

 「Win-Win関係で共に成長を目指す」。これが,あるホンダ系のティア1(1次部品メーカー)が取引先のサプライヤーに示している基本方針だ。
 この会社はホンダと資本関係があるが,「ホンダはQ(品質)C(コスト)D(納期)が総合的に優れているサプライヤーの部品しか採用しない。従って,ホンダからの受注はライバルのティア1と競争して勝ち取らなければならない。自動車部品は多くの部品で構成され,その競争力は,当社とサプライヤーを合わせた『グループ』で生み出すものだ。そのためには,共に利を得て,共に成長力を得るという考え方が必要である」(同ティア1)。


図●ホンダの現場
販売台数が世界的に拡大に向かう中で,グループ力をさらに強化することを目指している。



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