日経ものづくり 直言

「まず目的,その上で手段」
この基本で大きな無駄をなくせる

酒巻 久●キヤノン電子 代表取締役社長

 「事務の合理化で生産性を向上」との指示が出た。多くの場合, 「さあ大変!」とばかりにERPや最新型 コンピュータの導入を検討する。同時 に,端末に使うパソコンのメモリーサイ ズやクロックスピードについての議論 が延々と続く。はっきりいって不毛であ る。その揚げ句に導入した情報システ ムは,社員から不評だったりする。

 企業の目的は,社会の法的・道徳的 な要請を満たしながら適正な利益を 上げることである。適正利益が目的で, 合理化は手段であることを忘れてはな らない。この考えに立てば,労力の削 減が目的で,情報システムの導入はそ のための手段の一つに当たる。この場 合の優れた方法は,情報システムの導 入以外の手段も総合的に考えて,最小 の労力で合理化を実現することだ。

 そのためには,第一に事務処理の生 産性が低い原因を把握しなければな らない。「担当者は自分の能力をフルに 発揮しているか」「モラールは保持され ているか」「管理者層が職務を全うし ているか」など確認すべき事項は多い。

日経ものづくり 直言
さかまき・ひさし
1940年生まれ。1967年にキヤ ノン入社。研究開発部門など を経て,1996年3月に常務取 締役生産本部長,セル生産を 導入し,定着させる。1999年3 月から現職。著作に『キヤノン 方式のセル生産で意識が変わ る会社が変わる』など。