日経ものづくり 特集

「越中富山の薬売り」や,羽二重や加賀友禅などの伝統工芸で有名な北陸地方は,同時に日本海側屈指の“機械産業の郷”でもある。水や電力が豊富で,繊維機械や戦時中の兵器部品などを生産していたこともあり,非鉄金属メーカー,工作機械メーカー,建設機械メーカー,金属加工業者などが多数集まる。そして,それらの企業の中から世界の先端を行く技術が数多く生まれている。北陸の実力派企業を紹介する。(池松由香,森野 進,富岡恒憲)


三協立山アルミ/不二越

Mg合金薄板コイルを幅広化
国内最大の350mmを実現

 富山県に本社を置く三協立山アルミと不二越。この両社が手を組んで開発したのが,マグネシウム(Mg)合金の薄板コイルを製造する技術である。350mmと,国内では最も幅の広いMg合金薄板コイルを造れ,地球温暖化係数が二酸化炭素の2万3900倍という6フッ化硫黄(SF6)ガスを使わなくて済むというものだ(図)。地球環境に優しいことに加え,これまでよりも大きなMg合金製部品をプレスで成形できるようになるという強みを持つ。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●350mmと,国内で最も幅の広いMg合金薄板コイル


東洋ゼンマイ

玩具用ゼンマイでシェア3割
極小でも高いトルク精度

 水と電力の都,富山県黒部市にある東洋ゼンマイは,設立77年の経験で培った高精度の熱処理技術を武器に,ミニカーなど玩具用のゼンマイで世界3割のシェアを持つ。小さいもので厚さ0.05mm,幅0.7mmのゼンマイを生産できる熱処理ラインを独自に開発。「小さくても顧客の望むトルク(力)を高精度で実現できる」(東洋ゼンマイ社長の長谷川光一氏)という(図)。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●東洋ゼンマイで製造するさまざまな形のゼンマイ


明石合銅

鋼と銅の接合にノウハウ
シリンダブロックへの適用で先行

 銅合金は耐摩耗性,耐焼き付き性,なじみ性が高く,クロムモリブデン鋼は引っ張り強さや疲労強度に優れる。クロムモリブデン鋼の部品に銅合金を接合し,両者の長所を兼ね備えた油圧ポンプ向けシリンダブロックを製造しているのが,石川県白山市にある明石合銅である(図)。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●バイメタルのシリンダブロック


西村金属

メガネで培ったTiの精密加工技術
ドリル径の10倍の深穴も

 チタン(Ti)は強度が高く,耐食性,耐熱性などにも優れる素材。だが,一般には難削材といわれる。例えば,微細深穴加工はドリル径の2倍の深さが限界とされ,それを超えるとドリルが折れてしまうことがある。そうしたTiを,ドリル径の10倍で深穴加工できるのが福井県鯖江市の西村金属だ。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●メガネ部品の冷間鍛造


2007年1月,石川県金沢市に大型プレス機械を製造する新工場を設立したコマツ。 同年3月には,さらに同市に建設機械の工場を建設する進出合意書を同県と同市の間で調印した。 なぜ,コマツは再び北陸地区に力を入れているのか。 その理由を同社取締役専務執行役員(石川地区担当)の鈴木康夫氏に聞いた。(本誌)

コマツにとって北陸(石川県)は発祥の地です。小松工場でプレス機械を造り始め,しばらくしてから,その近くに建設機械(建機)の主力工場となる粟津工場を設立しました。もともとは,この地区がコマツにとっての最大の生産拠点でした。
 ただ,その後は大阪,川崎(現在は閉鎖),小山(栃木県)と北陸以外にもいろいろ工場が増え,コマツにとっての国内の主要拠点は,現在では関東地区,関西地区,北陸地区の三つに分かれています。
 残念ながら北陸地区は,現時点では関西地区や関東地区に続く3番目の拠点となっています。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


松浦機械製作所

1工程で複雑な金型を製作
世界初の金属光造形複合加工機

 世界初の金属光造形複合加工機。それを開発したのが福井県の工作機械メーカーの一つ,松浦機械製作所(以下,マツウラ)である。この複合加工機は「M-PHOTON 25C」と呼ばれるもので,金属光造形を行う機構と高速切削加工を行えるリニアモータ駆動のマシニングセンタを1台に融合した製品だ(図)。松下電工の基本特許を基に,松下電工とマツウラが共同で開発した加工機である。2003年4月に開発を完了し,同年8月に発売した。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●現在の金属光造形複合加工機「LUMEX」


スギノマシン

超高圧ウオータージェットで独走
硬質鋼の強度を落とさず切断

 超高圧水で対象物を切るウオータージェット。この分野の先駆者が,富山県魚津市にある工作機械メーカーのスギノマシンである。
 材料の切断で最も一般的なのは,刃物を使う方法だ。だが,この方法で強度が高く軽量なチタン(Ti)や高強度ステンレス鋼を切断すると,切断面に熱によるひずみが生じ,疲労強度が低下する。超高圧水を用いたウオータージェットによる切断は,こうした問題を解決できる手法である。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●マッハ3の超高速で水を噴射して対象物を切断


中村留精密工業

主軸やタレットの同期に強み
効率面からマルチ化にこだわる

 石川県白山市にある中村留精密工業は,複数のタレット(複数の刃物工具を放射状に取り付けた刃物台)と複数のスピンドル(主軸)を搭載した精密複合加工機でトップレベルの技術を持つ。大手工作機械メーカーが1~2タレットで1~2スピンドルの複合加工機を中心に扱うのに対し,同社は3~4タレットで2スピンドルのマルチタイプを主力としている。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●ワークを受け渡して表裏両面を加工


セーレン

電磁波遮蔽材料で世界シェア10%
ベースに染色加工とめっきの技術

 PDP(プラズマ・ディスプレイ・パネル)テレビ受像機の前面フィルタに使う電磁波遮蔽材料。そのトップシェアを握るのが,福井市の総合繊維メーカーであるセーレンだ。その世界シェアは10%に達する。(以下,「日経ものづくり」2007年7月号に掲載


図●セーレンの電磁波遮蔽材料