日経ものづくり ドキュメント

レクサスLSの開発 第8回
最後のテストコース

「藤田さん,ちょっといいですか」

 レクサスLSに搭載する安全技術の要となる「プリクラッシュ・セーフティ・システム」。その開発部隊を率いるトヨタ自動車の藤田浩一のもとに現れたのは,衝突回避や被害軽減を実現する車両制御の取りまとめをしている藤波宏明だった。

「どうした,難しい顔をして。吉田さんにまた何か注文を出されたのか」

「ええ,昨日,例の試作車に乗ってもらったんですけど,一言, 『味付けが薄い』と」

 例の試作車とは,ステアリング操作をアシストして車体の応答性を高めるという,全く新しい衝突回避技術を搭載したものだ。ドライバーが衝突を避けようとしたときに,クルマ側でステアリングギア比とサスペンションの減衰力を最適に制御することで実現する。

 2005年春,藤波が用意したこの試作車に,LSのチーフエンジニア(CE)を務める吉田守孝が試乗し,東富士研究所のテストコースを何周も走った後,藤波に「味付けが薄い」と言ったのだ。藤田が尋ねる。

「それ,どういう意味?」

「車体の応答性は確実に高めたんですが,それをどうやら実感できなかったらしくて・・・。効果が少ないということだと思います」

「応答性をもう少し上げた方がいいのかなあ」

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プリクラッシュ・セーフティ・システムの機能検証に使用し た歩行者のダミー人形