日経ものづくり 直言

批判を浴びてこそ進歩があるはず
切磋琢磨の場の衰退を憂う

高張 研一●ものづくり松下村塾 塾頭

 私たちは2年前に,勉強会NPO CAFE「ものづくり松下村塾」を立ち上げた。NPOは非営利組織,CAFEは「Computer Aided Forum by senior Engineer」の略。松下村塾はもちろん,幕末の思想家で卓越した教育者でもあった長州藩の吉田松陰の私塾から採った。

 私たちとは,企業で設計を手掛けてきたベテラン技術者で,月に1回程度開催する勉強会には,テーマに沿って中央大学や工学院大学,東京大学の先生方も参加する。塾の目的は,若手や中堅の技術者が抱える問題の解決を支援することだ。設立のきっかけは,技術者が自分の技術力を第三者に発信する機会が激減していることだった。

 技術者は,プロとして自分の設計の中身を誠意と努力をもって第三者に説明する義務がある。強度や寿命,コストといった新製品の設計要求や顧客ニーズに対して,自らの力量で最善の改善提案をしなければならない。逆に言えば,その力量を磨く上でも改善提案とこれらに対する技術者同士の率直な意見交換が欠かせない。ところが多くの企業は,業務効率の改善やコスト削減のために, こうした改善提案を吟味するデザインレビューなどが形式化してきている。そこで勉強会として,日本のものづくり技術の“伝承と公開”する場をつくったのである。

日経ものづくり 直言
たかはり・けんいち
1967年に大手重工に入社,黎明期のIT技術を用いた超大型タンカーやLNG船の設計開発に従事。1996年技術コンサルティングのTCR総研設立。2005年から勉強会NPOCAFE「ものづくり松下村塾・構造設計講座」を主宰。