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田野倉 力
2007/05/28 05:05
 

日経ものづくり 特集

頭一つ抜けた技術力の高さと確かな品質で,世界の顧客を魅了する日本のセットメーカー。競争が加熱するグローバル化の時代に突入しても,多くが海外のセットメーカーに対して競争優位を維持している。 だが,この強さは将来にわたって長く続くのか。今,セットメーカーの強さを支えてきた日本のサプライヤーの多くが疲弊している。時間はない。両者の連携を練り直すべき時が来た。


グローバル化の牙が供給者を蝕む
ゼロサムの発想を捨て真の共存へ

「好業績? どこの世界の話だ」。中小企業がひしめく東京近郊で金属部品を加工し,大手電機メーカーに納入しているあるメーカーの社長はこう憤る。「売り上げ2ケタ増とか,過去最高益などと騒いでいるのは大手セットメーカーだけ。我々中小のサプライヤーには全く還元されていない。この周辺でも『ウチは潤っている』なんて話は聞いたことがない」。

 ある工作機械メーカーの社員は,日本の金型メーカーの現状をこう憂える。「業界全体が冷え切っている。もう,多くは日の目を見ないのではないか」。

 日本の金型メーカーは従業員が20人以下の会社が9割,10人以下で8割近くを占めるという中小・零細企業が圧倒的に多い業界だ。複雑な金型でも高精度に仕上げる高い技術力などを強みとし,これまでセットメーカーである顧客のものづくりを見えないところで支えてきた。セットメーカーの「裏の競争力」の主要な部分を少なからず担ってきた存在だ。


売れ筋商品の一貫工場をタイに
時間をかけて人と技術を育てる

 ソディック・タイランド。最も売れ筋(ボリュームゾーン)の放電加工機を生み出し,各国の顧客に届ける同社の「世界中核拠点」だ(図)。ソディックはこの工場でワイヤ放電加工機および形彫り放電加工機の設計開発から量産までを一貫して手掛け,全生産台数の約5割を量産して,売り上げの7割近くを稼ぎ出す。

 立地は,タイの首都バンコクから北に50kmのナワナコン工業団地。ここに進出した約200社のうち,日系メーカーはざっと100社。タイは製造業に必要なインフラが十分に整った場所だ。

 ただし,販売台数の6割超を占める日本と米国,欧州市場からの距離は決して近いとは言えない。放電加工機は,ものづくりの要である精密な金型製作に欠かせないツール。だからこそ,顧客の要望をうまくすくい取らなければならない。一見,距離の遠さはこうした顧客との連携にとって障害になりそうだが,同社はこう否定する。「タイで造ってマイナスになることは何もない」。その理由は,距離をものともしない顧客志向の仕組みを構築していることにある。


図●回路基板の生産工程
NC制御装置に使う回路基板を生産する。日系企業から購入した電子部品を自動機で回路基板に実装。実装機で対応できない電子部品はこの写真のように人手で実装する。この際,実装個所を液晶ディスプレイに示し,作業員が間違えないように工夫している。


変化し続けるための「四つの革新」
チームプレーで生産性を高める

 可変容量コンプレッサの容量制御弁やカーエアコンの膨張弁で世界シェア第2位を誇るテージーケー(本社東京都八王子市,以下TGK)。容量制御弁に関しては機械式(MCV)と電子式(ECV)を手掛けている(図)。

 もともと自動車用製品を主力としていたが,近年は給湯システムのセンサや弁など異分野にも積極的に進出している。顧客の自動車部品メーカーとの取引を通じて鍛え上げられた品質が,異分野への進出に当たり役立っているという。

 とはいえ,土地勘が全くない場所で新規の顧客を開拓することは難しい。こうした困難を乗り越えてこられたのは,同社が「変化」を非常に重視しているからだと,同社代表取締役の清宮仁氏は語る。


図●コンプレッサの容量制御弁
写真の製品は機械式(MCV)。電子式(ECV)と合わせて世界シェア第2位を誇る。


優位性が失われたら素早く撤退
間髪入れずに次のオンリーワンを提案

 技術的に難しいものを低価格で顧客に供給するのが当社の使命」―。福井鋲螺(本社福井県あわら市)CEO 代表取締役の打本幸雄氏は,同社の方針をこう語る。

 同社は,社名こそ鋲螺(ねじ)だが,実際に造っているものの種類は幅広い。例えば蛍光灯のピン(図)。「価格に厳しい中国の蛍光灯メーカーさえもピンに関しては当社の製品を採用する」(同氏)。同社の世界シェアは約70%に達するという。価格と品質を高水準で両立できている証拠だ。


図●蛍光灯のピン
全世界シェアは70%に達する。


悩み抜た末にタイと中国で量産
他社と組んでリスクをチャンスに

 「海外に出るのは嫌だった」。プレス加工メーカーの中川機器製作所(本社埼玉県秩父市)の代表取締役社長を務める中川文之氏は,こう本音を吐露する。同社は今,タイと中国に工場を有している。だが,同氏は最後まで海外進出を躊躇した。

 理由は三つ。まず,中小企業の同社にとって資金的な余力が小さいと考えた。「海外進出するには大きな投資が要る。だが,そんな余裕があるなら,国内でまだまだ強化すべきことがあると思った」(同氏)。


図●ダッシュボード(グローブボックス)のヒンジ
両アーム先端に設けた穴同士の軸心精度「針円度」が10μm以下と,誤差は通常の1/10。


ニッチ分野で信頼を獲得
汎用品化で販売量拡大

 「大手が嫌うニッチな分野で技術を蓄積し,その分野でのトップシェアを狙う」―。日星電気(本社浜松市)総務部・経理部部長の小楠成久氏は,同社の戦略をこう説明する。

顧客の悩みに商機あり

 日星電気はフッ素樹脂やシリコーンゴム製の電線・ケーブルおよび光ファイバのサプライヤー(図)。住友電気工業や古河電気工業,フジクラといった大手がひしめく業界において,日星電気のような中堅企業が生き残るには明確な個性が必要なのだ。(同氏)。


図●日星電気の主力製品
電線・ケーブル(シリコーンゴム製)


海外進出はタイミングこそすべて
アジア全域の拠点で需要に対応

 アドバネクスは,海外に10カ所以上の生産拠点を構えている。同社の主力製品は,線ばねや板ばねといった精密ばね(図)。家電やOA機器向けの小型のばねを得意とする。

 海外生産拠点の幾つかは,主要顧客のすぐそばにある。日本と同じ品質の製品を海外でも生産することによって,現地調達率を高めたいセットメーカーの要望に応えるためだ。


図●アドバネクスの製品
線ばねや板ばねなど,さまざまな形状・大きさの製品がある。小型の製品を得意とする。


逆風突いて幅広い金型をラインアップ
技術者の経験時間はITで“買う”

 日本の金型メーカーには強烈な逆風が吹いている。中国の金型メーカーの台頭がその主な原因だ。コスト競争力を強みとする中国の金型メーカーが打ち出す価格競争を前に,踏ん張りきれずに吹き飛ばされていく日本の金型メーカーは少なくない。

 だが,この逆風を突き,ここ4年間で売り上げをざっと2倍に高めた日本の金型メーカーがある。北海道室蘭市に立地するキメラだ。2003年に約10億円だった売り上げは,2006年に約19億5000万円まで伸びた。


図●金型の設計
3次元CADを使って設計する。頭の中で立体図を構成する必要がないため,図面を読み取るための教育の時間を省ける。キメラはこうしたITツールを使うことで,教育の効率化を図る。

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