日経オートモーティブ 特集

ドライブ・バイ・ワイヤは、クルマのあり方を根本的に変える技術だ。車両デザインや設計、パッケージングなどを一変させる可能性を秘めている。ステアリングではEPS比率が上昇し、パーキングブレーキではモータ駆動のタイプが実用化するなど、バイワイヤに向けた技術がそろってきた。本格的なバイワイヤ時代に向けてステアリングとブレーキの電動化最前線を見る。(小川 計介)




ドライブ・バイ・ワイヤは、設計の自由度拡大や安全性・快適性の向上につながる技術だ。 クルマのデザインやパッケージを一変させる可能性を秘めている。 信頼性の確保がネックとなり、ステアリングでの実用化は足踏み状態だ。 ただしブレーキでは、まず電動油圧ブレーキとしてバイワイヤ化が着実に広がっている。 本格的な実用化には新しい車載LAN規格「FlexRay」を活用する必要が出てくるだろう。

 クルマの操作部分から機械的な伝達機構を無くし、すべて電気信号による伝達に置き換えようとする「ドライブ・バイ・ワイヤ(X-by-Wire)」はクルマのあり方を根本的に変える技術だ。
 ステアリングからコラムシャフトが無くなり、ブレーキからは油圧機構やパーキングブレーキ用のケーブルが姿を消す。操作部分とアクチュエータを電気的に接続すれば済むので、機械的な部品を省け、クルマの設計やデザインの自由度は大幅に高まる。また、ステアリングやブレーキ、アクセルなどは完全に電子制御化されるので、これまでの個別制御から統合制御化への流れが加速し、安全性や快適性の向上が期待できる。
 世界で最もドライブ・バイ・ワイヤに積極的な部品メーカーの一つがスウェーデンSKF社だ。GM社の燃料電池車「Hy-wire」や、イタリアBertone社のコンセプトカー「Novanta」などにバイワイヤ技術を提供してきた(図)。
 バイワイヤ化によって、最も姿を変えると見られるのがステアリングだ。例えば、Hy-wireのステアリングには、コラムシャフトは存在せず、乗員の足元には何も無いスペースが広がる。ステアリングはドライバーの操作力を検知できれば良いので、これまでとは形状もまったく異なる。アクセルやブレーキの操作機能もステアリングに統合している。機械的な接続がないので、これまでのようにペダルを床に配置する必然性がないからだ。

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図●GM社の燃料電池車「Hy-wire」のインパネ
ステアリングだけでなく、アクセルやブレーキをバイワイヤ化して、電気信号で作動させる。従来の機械式あるいは油圧式の機構は用いていない。



環境性能と多様な機能を実現できることから世界的に採用が増えているEPS。 ブラシ付きモータからブラシレスモータへの置き換えが進む。 上級車種ではステアリング操作に対するタイヤの切れ角を自在に変える アクティブステアリングの実用化も進んでいる。 今後バイワイヤ化を進めるには、バックアップシステムの確立が不可欠だ。

 電動パワーステアリング(EPS)は、ステアリングホイールの操舵力をトルクセンサが検出し、ECU(電子制御ユニット)に信号を送ることで操舵力をアシストするシステムだ(図)。
 エンジンの駆動力を常時必要とする油圧パワーステアリングに比べて、EPSは必要なときだけアシスト力を発生するため、一般に燃費が3~5%向上するといわれている。環境意識の高まりから2000年以降、世界各地で急速に普及した。
 加えて、EPSが普及した背景には、油圧パワーステアリングでは不可能なステアリング制御ができることがある。路面状態に応じてドライバーの操作とは逆にステアリングを切ったり、路面からの不快な振動を遮断する機能などが実用化されている。上級車では、車速に応じてステアリングの操作量に対するタイヤの切れ角を変化させ、低速での取り回し性や高速での走行安定性を高めるアクティブステアリングの搭載車も増えてきた。

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図●EPSの仕組み
ステアリングホイールの操作力をトルクセンサが検出すると、ECUが車速情報を基にアシスト量(モータに流す電流量)を決めて電流を流す。



どのメーカーもブレーキ・バイ・ワイヤの最終形として 油圧を使わずモータで直接制動力を発生させるタイプを目指している。 ただしそこへのアプローチは大きく二つに分かれる。 まずパーキングブレーキを電動化し、それを発展させようとする方向と ブレーキシステムに油圧を残したまま、まずバイワイヤ化する方向だ。

 ブレーキメーカー各社は、バイワイヤ化の最終形として、油圧を使わない完全な電動ブレーキを目指している。現在のような油圧配管やパーキングブレーキ用のケーブルなどを省き、ブレーキキャリパやドラムブレーキにモータを組み込んで直接制動力を発生させるタイプだ。
 完全な電動ブレーキに移行するメリットは多い。現在のブレーキシステムは、真空倍力装置や油圧配管で構成され、さらにABSやTRC(トラクションコントロール)、横滑り防止装置などの機能を実現しようとすれば、そのためのアクチュエータや油圧を発生させるための電動ポンプ、油圧を制御するための多数のソレノイドが必要だ。
 完全な電動化が進めば、こうした複雑なシステムは一切不要になり、各ホイール内に搭載したモータと、モータで制動力を発生する機構、それに各輪への配線というシンプルなシステムになる。量産化が進めば大幅な低コスト化も期待できるだろう。
 油圧配管やケーブルを組み付ける生産工程も効率化でき、油圧配管やケーブルが占めていたスペースが不要になり、設計・デザインの自由度も広がる。作動油の補給など油圧系統のメンテナンスが不要になる点も見逃せない。

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図●ブレーキメーカーの電動化の方向性
各社は最終的には4輪すべてを電動化したい考え。Siemens社は最初から4輪の電動化を目指すが、ほかのメーカーは電動油圧式や後輪の電動化から段階的に4輪の電動化を計画する。一方で、日信工業のように、現在のABSやESC(横滑り防止装置)の進化を重視するメーカーもある。