日経ものづくり 特報

おもちゃに学ぶ
ものづくりの創意工夫


少子化の影響で競争が激しくなる玩具業界。その中で勝ち残るためには魅力ある製品の投入が不可欠だ。一般の工業製品とは一味違った低価格化の工夫や,子供の使用を想定した安全対策と使いやすさへの取り組みは,工業製品でも参考になるものが多い。その創意工夫のポイントを探る。

 2006年9月にタカラトミーが発売した「Q STEER」は,遠隔操作が可能な「チョロQ」。前進/後退と左右への方向転換を可能にしながら,約1000円という低価格を実現し,注目を集めた。
 タカラトミーは2005年5月,タカラとトミーの合併で誕生した。この「Q STEER」の開発には,合併による技術の融合が大きく貢献している。
 実は,遠隔操作できる最初のチョロQとしてはタカラ(当時)が2001年に発売した「デジQ」がある。しかし,デジQの価格は約5000円とQ STEERの約5倍。低価格化は課題の一つだった。

低価格化に再挑戦
 ここにトミー(当時)の技術が加わる。トミーもチョロQとほぼ同じ大きさの「ビットチャーG」,やや大きめの「エアロアールシー」といった遠隔操作が可能なクルマのおもちゃを発売していたからだ(図)。
 特に2004年末に発売したエアロアールシーは約1000円という低価格が受け,累計400万個以上を売るヒット商品になっている。低価格を実現したポイントは,組み立てを子供たちに任せる,複数の車種でシャシーを共通化するといった取り組みだ。トミーでもその後,エアロアールシーを小型化する商品企画が進行中だった。
 エアロアールシーの登場を受けて,タカラでも低価格で遠隔操作が可能なチョロQの検討が具体化した。しかし,目標価格実現の見込みが立たず棚上げ状態だった。
 合併が発表されたのはこのタイミングだ。そして,両社の開発チームが合流し,得意な技術を持ち寄ることで再び開発が始動した。
 例えば操舵。デジQは左右の車輪を別々のモータで回し,回転差をつけて方向を変えていた。Q STEERではこれを,トミーが採用していた前輪の向きを左右に動かす方法に変更*2。操舵機構は必要だが,モータが一つで済むのでコストは下がる。またシャシー部品についてはエアロアールシーと同様に,すべての車種で共通化している。

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図●「Q STEER」と関連製品
タカラトミーが2006年9月に発売した「Q STEER」は赤外線リモコンによる遠隔操作を,1000円を切る実売価格で実現した。遠隔操作が可能な電動のチョロQとしてはタカラ(当時)が2001年に発売した「デジQ」があるが,価格は約5000円と高く,操作も難しかった。トミー(当時)が発売した「ビットチャーG」の操作性や「エアロアールシー」の低価格化のノウハウが受け継がれ,Q STEERが誕生した。