日経ものづくり 特報

大型車で頻発する
ボルト折損事故

設計に潜む三つの不安材料


トラックやバスといった大型車で,ホイール・ボルトの折損事故が相次いでいる。事態を重くみた国土交通省では,2007年4月施行の「改正道路運送車両法」に,ホイール・ボルトを締め直す際のトルクの規定値などを盛り込む予定だ。確かに,整備業者など締め付けの現場で正しい締め付けが施されていれば,事故は減る。しかしこの問題,対策を現場だけに任せておいていいのだろうか。現在の設計自体に不安材料はないのだろうか。

「あの数字は,実態と懸け離れている。実際には,もっとたくさん起きているはずだ」。
 東京都八王子市で,トラックやバスをはじめとする大型車などの整備を手掛ける小林自工代表取締役の小林利男氏が指摘する「あの数字」,それは国土交通省の依頼で交通安全環境研究所が2004年12月にまとめた「(車両総重量で8t以上のバス・トラックなどの大型車の)ホイール・ボルト折損による車輪脱落事故」の件数を指す。具体的には,1999年1月21日から2004年10月28日までの間に発生した97件という数字だ。
 「この統計調査に協力したのは,自動車メーカー系列のディーラーなどごく一部。実態の把握を難しくしているのは,ボルトの折損や車輪の脱落といった事故が,大型車のユーザーである運送業者などにとっては自らの不備に,その修理を担当する町の整備工場にとっては大事なお得意様の不備に当たるため,それをわざわざ届け出ようとしないからだ」(小林氏)。
 小林自工には,1カ月に1台程度は,車輪脱落や折損までには至らないもののホイール・ボルトが緩んで飛ぶ寸前の大型車が入庫するという(図)。たった1整備工場でこの頻度。全国には,日本自動車整備振興会連合会の会員「自動車整備事業を営む事業場」だけで8万9000カ所(2005年7月末現在)ある。この膨大な数と小林氏の証言を重ね合わせれば,この種の事故が各地で頻発していることは想像に難くない。
 大型車のホイール・ボルトの折損の問題は,小林氏が指摘する通り,我々が認識している以上に深刻と考えて間違いなさそうだ。

日経ものづくり 特報
図●大型車で折損したホイール・ボルト