日経ものづくり 直言

国際標準化は両刃の剣
その後の事業戦略の構想が必須

東京大学大学院経済学研究科
ものづくり経営研究センター研究ディレクター・助教授
新宅 純二郎


 政府が推進する知的財産戦略の中で,国際標準化活動の強化がうたわれている。日本の技術を基にして国際標準化を主導することが,知財立国たらんとするときに極めて重要であるとの認識が示されている。
 筆者はこの認識に共感する半面,強い懸念を持っている。標準化は,それにかかわる利害関係者に等しく便益を与えるわけではない。やり方次第で企業や国の利益を高める強力な手段にもなるし,逆に利益を喪失するきっかけにもなるからだ。
 DVDの事例で考えてみよう。DVDは1990年代半ばに,日本の電機大手が開発した技術を基にして国際標準になった製品である。日本の技術が国際標準を獲得するという意味ではまれに見る成功例である。特許プールも形成されてライセンス事業も成立した。
 しかし,基本技術を開発した企業は必ずしも高収益を上げられていない。パソコンに搭載されたドライブでは,台湾と韓国企業が合わせて80%程度のシェアを獲得し,DVDプレーヤーは世界の約半数を中国企業が生産している。標準化が機器の生産を容易にし,価格低下と市場拡大をもたらしたが,機器関連事業は日本企業に限らず大半の企業が赤字か小さな利益に甘んじている。

日経ものづくり 直言
しんたく・じゅんじろう
1989年学習院大学経済学部専任講師,1990年同大学同学部助教授,1996年東京大学大学院経済学研究科助教授(現職)。経済学博士(東京大学)。組織学会理事,国際ビジネス研究学会理事などを務める。