日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

三野 哲治
住友ゴム工業 代表取締役社長

見えない材料の動きを見える化
シミュレーションで開発を加速

みの・てつじ
1969年住友電気工業入社,1999年同社取締役中部支社長,2001年6月同社常務取締役,2003年3月住友ゴム工業代表取締役専務執行役員, 2004年3月同社代表取締役副社長,2005年3月同社代表取締役社長,現在に至る。2006年5月からタイヤ公正取引協議会副会長,並びに日本自動車タイヤ協会副会長。

分子レベル,原子レベルのシミュレーション技術により材料開発のスピードを向上。 新型タイヤの発表時には,新たに開発したシミュレーション技術を併記している。 その一方で,アジアで一番のコスト競争力を目指す。 タイヤは材料開発,構造設計,生産技術と総合力の求められる製品。 クルマ同様,高度な「擦り合わせ」が必要になるという。

 タイヤっていうのは特に一般のドライバーの方から見ると,黒くて丸いゴムの塊っていう感じで受け止められてると思いますが,実は一般的なものでも20近い部材を張り合わせてできているものです。例えばトレッドという地面に接する所,サイドウオールという側面の部材とかですね。それらが単に張り合わされるというだけではなくて,ハーモナイズっていうんでしょうか,それぞれ役割を担いながら最終的にタイヤの性能を出しているわけです。
 東京大学の藤本隆宏先生がものづくりについて書いておられる中で,擦り合わせ型の代表例は自動車とされているわけですけれども,タイヤも一つの擦り合わせ型の製品と位置付けられていると思います。 20近い部材を組み合わせることだけではなくて,まず材料を開発する技術が必要で,次に開発したコンパウンドを構造部材にする設計技術があって,さらにそれを実際にタイヤとして仕上げていく製造現場の技術があって,という一連のプロセス全体が非常に擦り合わせ的で,総合力が必要だと思っています。

シミュレーションは「見える化」
 材料の開発力と構造設計,この両面で私たちの強みになっているのがシミュレーション技術です。材料開発では最近はいわゆるナノレベルの,分子レベルや原子レベルのシミュレーションを実施するようになっています。今流に言えば「見える化」っていうんでしょうか,これで材料開発のスピードは非常に速くなっていると思っています。