日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

猿渡 辰彦
TOTO 取締役専務執行役員

研究所のモチベーションは
第一線との交流で向上する

さるわたり・たつひこ
1976年4月TOTO入社,1998年4月給湯機事業部長,2001年6月取締役執行役員 機器事業グループ長,2003年4月取締役常務執行役員 研究・技術グループ長,2005年4月取締役常務執行役員 研究・技術グループ長兼システム商品グループ長,2006年6月取締役専務執行役員 研究・技術グループ,経営企画部担当を歴任,現在に至る。

研究所から小部屋をなくし,目の高さ以上のものを取り払った。 また,現場の応援に積極的に研究員を送り込んでいる。 目先の問題解決は,将来のことを考えるべき研究員の本務ではないはず。 しかし,現場にはものづくりの原点があり, 原点に立ち返ることが視野を広げる,と考えている。

 ものづくりの現場といえば,旋盤を回すとかフライス盤を動かすとかを連想しがちですよね。私自身,入社時に技術部に配属されて,そのような世界だけがものづくりだと思っていたわけです。
 そういう現場も大切ですけれども,われわれが造った製品をお客様に訴求する営業の方々,クレーム対応をする人々,広報のメンバー,すべてがものづくりの中で一つの役割を果たしています。お客様に買っていただいて,対価を頂いて初めて私たちの給料が出て,あるいは次のものづくりにそのお金を生かせるわけですよね。お客様が対価を払われるその瞬間に至るまでのすべての連鎖がものづくりである,と考えるようになりました。

生産技術こそものづくり,と思っていた
 ずっと技術に携わってきた中で,工作機械も設計しました。世の中にない,特殊なターレットセンターという機械を自分で造り,TOTOに導入しました。それが100台にもなります。
 バルブという水栓金具を銅合金で造るとき,スチールと違って切削性はいいんですけれども,最低でも六つ以上の穴が必要なんですね。水が出るところ,水が入るところ,お湯が入るところ,お湯をオンオフするところ,温調するところと数えていきますとね。そこには必ずねじが必要ですし,弁構造のシートも必要になって,非常に高精度に仕上げる必要があるわけです。ところが市販されているマシニングセンタでは時間がかかりすぎて経済性がないので,銅合金からバルブを造るのに最も適した機械を内製したわけなんです。これは今でも本当に私の自信作です。
 あるいは設計のメンバーが「こんなものできるやろか」と図面を持ってきます。できないと答えたことはありません。あらゆる工夫をして造ってみせる,それこそものづくりだと励んできたんですけれども,いろんな経験を積むに従って価値観がだんだん変化してきまして,すべての仲間のマスゲームとして初めてものづくりが完結するのだ,という思いに至ったんです。