「もしもし。今度出るノート・パソコンの『PCG-C1』について,聞きたいことがあるんですが」
「はい,どのようなことでしょうか」
「内蔵カメラのレンズなんですけど,材質はガラス,それともプラスチックですか。それと,インタフェースがどうなってるのか知りたいんですけど」
「…技術的な内容についてのお問い合わせですね。大変恐縮ではございますが,こちらの窓口ではお答えしかねます。後日,担当者から連絡させますので…」

 こんなこと聞いても分かんないかな―。半信半疑でかけてみた電話先で,単刀直入に切り出した齋藤浩明の質問に対し,女性の反応は意外にも普通だった。

 1998年秋,アイ・エイチ・アイ・エアロスペースの齋藤は,小惑星表面探査用小型ロボット「MINERVA」に使う部品の選定に奔走していた。特に頭を悩ませた部品がMINERVA内部のわずかなすき間に実装できるカメラである。ようやく見つけたのが,液晶画面の「額縁」にカメラを組み込んだソニー製のノート・パソコンだった。このカメラが欲しい。ソニーに何の縁もない齋藤は,取り急ぎ一般消費者向けのお客様相談センターに電話した。