1回94万5000円。時間はたった4.5秒。利用時に一切制約を課さないとはいえ,岐阜県土岐市にある落下塔施設,日本無重量総合研究所が提示する値段は,「MINERVA」の開発陣にとって法外だった。

 落下塔施設は,地球上にありながらあたかも重力がないかのような状況を作り出せる実験設備である。重力がほぼゼロの小惑星「イトカワ」で移動機構が動作するかどうかを確かめるには,利用しないわけにはいかない。しかしMINERVAの開発予算は限りなく無に近い。落下塔での実験はここぞという時まで取っておきたい。それまでは,なるべくお金が掛からない方法で,どうにか代用できないか。

 1998年夏。MINERVAの開発は新たな段階に入っていた。シミュレーションでの成功を受けて,移動機構の動作を実機で確かめなければならない。ロボット製作に向けそろりと踏み出した第一歩で,開発陣はいきなり資金の壁にぶち当たった。