日経ものづくり 設計者のための解析入門

第12回 熱流体解析編(2)

三つの手法でモデルを簡略化
部品かシステムかで方針に差

熱流体解析は時間がかかることが多い。手早く結果を得るためにはモデルを簡略化するのが肝要。しかし,形状を省略しすぎたり簡略化の方法を誤ったりすると,現実と全く違った結果となってしまう。精度と時間をバランスよく簡略化するにはどうすればよいのか。今回はその考え方と手法について解説してもらう。(本誌)

広野 友英
電通国際情報サービス 製造システム事業部 CAE技術部

 CAEでは,計算時間を節約するために形状モデルを簡略化したり,省略したりすることがある(図)。なぜ,そんな手間が必要なのか。設計の3次元データをそのまま解析に流用できれば,いちいち簡略化せずに済むはず。
 理由は,そのままでは計算時間がかかり過ぎるためだ。多少の工数をかけても総合的には簡略化した方が効率が良いということも多い。短時間で結果が得られれば設計に素早く反映させられるし,限られた時間でより多くの条件を検討できる。
 特に熱流体解析(以下CFD)は,固体部分と流体部分の全体を解析領域とするため,構造解析と比べて解析規模が大きくなりやすい。しかも,支配方程式*1が非線形であるため繰り返し計算(反復計算)で解を求めなくてはならず,計算に時間がかかる。実用的な計算結果を得るにはある程度メッシュも細分化しなくてはならない(p.128の別掲記事参照)。
 計算時間を抑えるためにどこまで元の形状の詳細さを重視するかが,CFDを利用する上で重要なカギとなるのだ。

簡略化に三つの方法
 モデルの簡略化に当たって重要なのが,解析対象の全体を大局的に把握しておくということ。熱や流れを予想して設計しておかないと,どこをどう簡略化するかという方針も立てにくい。そういう観点からも,CFDは構想段階で適用するのが望ましい。レイアウト設計が熱や流れを支配することが多いからだ。
 そもそも,概略形状しか決まっていない構想設計の段階の方が,細かな形状を作り込んだ詳細設計の段階よりもずっと容易に簡略化できる。設計が進むほど形状が詳細になるので,詳細設計でCFDツールを使うと簡略化のために多くの時間が必要となる。

日経ものづくり
図●モデル形状を簡略化した例
基板上の細かな部品を省略したり,コンデンサやトランスを単純な円柱や立方体に置き換えたりしている。