日経ものづくり 事故は語る

安全対策を軽視したプール設計
ずさんな管理で「欠陥」が露呈

2006年7月31日13時40分ごろ,埼玉県ふじみ野市にある市営大井プールの流水プールで,小学校2年生の女児が吸水口に頭から吸い込まれるのを監視員が目撃した。10分後に消防隊が到着したものの救出は難航。同日17時前から現場付近を解体し吸水管を破壊する。19時30分ごろ,吸水口から5mほど入った所でようやく女児を発見した。

 女児は病院に運ばれたが,事故発生から約6時間が経過しており,病院で死亡が確認された(図)。
 大井プールは,1986年に開設。毎年1万5000~2万人前後の利用者が訪れており,事故当日も270人ほどが入場していた。事故があった流水プールは,吸水口からポンプ(起流ポンプ)で取り入れた水を,吐出口から吐き出して反時計方向に流れを作る仕組み。吸水/吐出口がそれぞれ3カ所ずつ設けられており,そのうちの吸水口の一つに女児が吸い込まれた。

監視員の目の前で
 既に新聞などで報道されたように,事故の直接の原因は,吸水口の前面にあったはずのステンレス鋼製の防護柵が外れていたことにある。
 13時30分ごろ,遊泳中の男児が外れている防護柵を発見。プールサイドにいた監視員に届け出ていたが,監視員はそれが何かを認識できずに他の監視員に連絡した。最終的には管理責任者が他の監視員を伴ってプールサイドに行き,外れていたのが吸水口の防護柵であることを確認。柵を固定するための針金を取りに管理棟に戻っている間に,悲劇は起こった。
 2006年9月にまとまった事故報告書によると,小学校2年生の女児の平均的な肩幅と肩回りは30cmと72cm。同プールの吸水管の直径が30cmなので肩をすぼめれば入ってしまう大きさだ。肩が入った状態だと吸水管の断面積の約50%は閉塞し,大きな吸引力が働く。模型実験によると,頭まで入った状態で30~50kgf,胴体の半分程度まで入った段階で150~200kgfの力が働くとのデータもある1)。今回の事故における詳細な数値は不明だが,いったん吸い込まれると人の力で引き戻すのは相当困難と考えられる。

日経ものづくり 事故は語る
図●プール事故を報じる新聞記事