日経ものづくり トヨタ生産方式の真髄と新展開

第13回

中小企業へのかんばん方式導入

五十嵐 瞭
中部産業連盟 常務理事
主幹コンサルタント

トヨタ生産方式が効果を発揮するのは,大企業でも中小企業でも同じ。しかし中小企業の場合は人材も豊富でないため,なかなかうまく導入できないのが実情だ。今回は,実際の導入事例をベースにして,中小企業にかんばん方式を効率的に導入する勘所を解説する。(本誌)


 下請中小企業では,人材が豊富ではないため管理レベルも低く,なかなかトヨタ生産方式を導入しにくい。今回は,このような下請中小企業に,トヨタ生産方式の中でもかんばん方式を導入する手順と留意点について,A社へかんばん方式を導入した事例を紹介しながら記述する。

かんばん方式導入の背景
 A社は,大手自動車部品メーカーB社のエンジン周りの部品を製造している従業員約120人の下請中小企業である。A社はB社の系列下請企業として,これまでは順調に発展してきた。しかしバブル崩壊後,B社の下請企業に対するコストダウン要求は極めて厳しくなり,それに対応できない場合には取引の縮小もしくは中止という危機に直面した。
 B社は以前からA社に対してかんばん方式を適用していたが,A社はそれに対して在庫をかなり持って対応していた。その結果,製造原価は高くなっており,B社からの受注数が多く売り上げが高かった年においても,利益があまり出ないという企業体質が定着していた。
 そこで徹底的にコストダウンを図り,B社の厳しいコストダウン要求に応えながら利益を出せる企業体質にするために,かんばん方式の導入に踏み切ったのである。

日経ものづくり
図●作業進度管理板の例
1時間ごとの生産数量を計画欄に記入して作業指示とする。実績を記入して計画と対比,差異が発生した場合は,差異原因を記入して処置を実施する。