日経ものづくり 直言

ものづくり能力をベースにした
ブランド戦略

東京大学大学院経済学研究科
ものづくり経営研究センター研究ディレクター・助教授
新宅 純二郎


 筆者は,月1回くらいの割合で,アジア諸国の工場のフィールド調査に回っている。そこで痛感するのは,中国における日系工場と中国ローカル企業の工場を比べると,生産性や歩留まりなど現場の能力は明らかに日系工場のほうが高いということである。同じ中国でも日本企業の方がコスト高であるとよくいわれるが,同じモノを造っている限り,日本企業がコストでも負けているとは思えない。
 では,なぜ日本企業製品は,中国で造っても高くなってしまうのだろうか。日本本社の間接費や研究開発費がコスト負担になっているケースもあるが,大きな要因は,日本企業が造っている製品と中国企業などが造っている製品では,モノが違うという事実である。つまり,日本企業は何らかの意味で高品質のモノを造っているから,その分が高コストになっているのである。
 収益力を高めるために,コスト競争力を高める努力は重要である。しかし同時に,極めて重要なことは,ものづくり能力の高さの一つとして製品に埋め込まれた高い品質の価値をユーザーに認めてもらうことである。壊れにくい製品,安定稼働する信頼性の高い製品,長持ちする製品,そういった普遍的な品質価値をもっと積極的に訴えてはどうだろうか。筆者はものづくり能力をベースにしたブランド戦略の重要性を提唱したい。日本製品は過剰品質だと指摘されることも多いが,品質の良さを訴求する努力がもっとあってよいと考えている。品質の差が理解されずに,価格差だけが目立っているケースが多い。

日経ものづくり 直言
しんたく・じゅんじろう
1989年学習院大学経済学部専任講師,1990年同大学同学部助教授,1996年東京大学大学院経済学研究科助教授(現職)。経済学博士(東京大学)。組織学会理事,国際ビジネス研究学会理事などを務める。