日経オートモーティブ 連載

軽く安くする材料・加工技術・第3回

高張力鋼板の成形性を
向上させるプレス技術

自動車の軽量化のため、高張力鋼板の採用が増えている。しかし高張力鋼板は軟鋼板に比べて加工性が低下するという難点がある。JFEスチールは、高張力鋼板の加工性を向上させるプレス成形技術を開発した。新成形法の加工性向上メカニズムと加工装置について解説する。

JFEスチール スチール研究所
主任研究員
玉井 良清


 地球環境への関心の高まりから、自動車にはCO2(二酸化炭素)排出量の削減を目的とした燃費向上が求められている。このための有力な手段として車体の軽量化がある。しかし自動車の衝突安全基準は厳しくなる傾向にあり、これに対応しようとすれば、むしろ車体は重くなる。
 この軽量化と衝突安全性向上という、相反する要求を満足するため、車体への採用が増加しているのが高張力鋼板である。高張力鋼板の採用により、鋼板の板厚を薄くすることができ、同等の衝突安全性を確保しながら軽量化することが可能になる。
 一般に鋼板の強度を向上させると、その伸び特性は低化するため、プレス成形性(絞り性、張り出し性)は低下することが知られている。従来、自動車の車体に適用される高張力鋼板は、引っ張り強度で440MPa級が主流であったが、現在では980MPa級が使われ始めている。より強度の高い鋼板を車体に適用するためには、成形が難しい高張力鋼板でもプレス加工できる技術の開発が必要である。
 当社はこうしたニーズを背景に、高張力鋼板の成形性を向上させる新加工技術「JIM-Form」(JFE Intelligent Multi-stage Forming with press motion control)を開発した。開発にあたっては、車体パネルのような大型のプレス品への適用が可能なこと、および従来のプレス加工方法に比べて、生産性を大きく低下させないこ

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図●各種高強度鋼板の強度-伸び特性