日経オートモーティブ 技術レポート

Volkswagen社の高温燃料電池
2020年の実用化目指す
加湿不要で冷却装置も小型化可能

 ドイツのVolkswagen(VW)社は2006年10月、ウォルフスブルク郊外にある次世代技術研究所を公開し、120℃で作動するリン酸型燃料電池を開発したと発表した(図)。同社はこの技術により、早ければ2020年に日常使用が可能な燃料電池車を市場に投入できるとの予測を示した。

 燃料電池やハイブリッドといった次世代のパワートレーン技術について、これまであまり積極的に発表してこなかったVW社が、燃料電池およびハイブリッド技術を専門に研究する施設を公開した。同時に、120℃で稼働する高温燃料電池(High Temperature Fuell Cell)の開発を表明した。
 従来から車両向けに開発されている燃料電池は、電解質に固体高分子膜を使用する場合が多く、膜の耐熱性から80℃程度で動作している。ただ、外気温との温度差が小さいため、ディーゼルエンジンの3倍もの能力のラジエータが必要となり、冷却装置が大きくなる欠点があった。また、水分子を媒介に水素イオンが移動するため、常に燃料電池内を加湿する必要があり、こうした補機類が大型で重い上、高コストの一因にもなっていた。

リン酸の流出を防ぐ構造がかぎ
 一方、今回開発した燃料電池は、電解質膜の材料を変更することで、作動温度を約120℃に高めている。外気温との差が大きくなり、放熱しやすくなったため、冷却システムを小型化かつ軽量化できる。
 かぎとなったのは、高温でも劣化しない電解質膜にある。機械的強度および耐熱性が高いPBI(ポリベンゾイミダゾール)に85%のリン酸溶液を含浸させ、乾かしたものを電解質膜として使用する。リン酸を媒介とすることで燃料電池内を加湿する必要がない。また出力が高いのも特徴で、従来型の燃料電池を搭載していた「Touran」の試作車が最高速度136km/hであったのに対し、新電池を積むことでそれを193km/hまで高められるという。

日経オートモーティブ 技術レポート
図●Volkswagen社の120℃で作動する燃料電池