日経ものづくり 事故は語る

緊急レポート
浜岡原発5号機の
タービン羽根損傷事故

米国との比較で明らかになる日本技術の甘さ

桜井 淳
物理学者・技術評論家

2006年6月15日午前8時39分,定格熱出力一定運転中の中部電力・浜岡原子力発電所5号機で「タービン振動過大」の警報が発報し,原子炉が自動停止した。それから4日後,日立製作所が中部電力に協力して点検を実施したところ,低圧タービンBの第12段動翼(回転羽根)840枚のうち663枚が損傷し,1枚が破損していたことが明らかになった。実は,同型のタービンが米GE社で製造され,浜岡5号機より古くから東京電力・柏崎刈羽原子力発電所6号機/7号機で運用されている。しかし,柏崎刈羽ではこうした異常は発生していない。浜岡と柏崎刈羽の差,ひいては日本と米国の差は,実験に対する考え方にある。

 世界でも最新鋭の中部電力・浜岡原子力発電所5号機〔電気出力138万kW,日立製作所製ABWR(Advanced Boiling Water Reactor)〕では2005年1月から第1サイクルの商業運転を開始し,1年後の2006年1月から第1回定期点検が実施された。筆者は2006年1月28日,その定期点検の現場(中央制御室/原子炉格納容器内/タービン室)を見学した。そのときには「まだ新品であるため,問題となるようなことは何も生じないだろう」と推察していたが,意外にも,第2サイクルで定格運転中の2006年6月15日8時39分に「タービン振動過大」信号で自動停止した。
 タービン振動過大の原因は,低圧タービンBの第12段目の動翼(回転羽根)の一つが損傷/脱落したことだった。原子炉所有者の中部電力とタービンメーカーの日立製作所によって実施された原因究明の結果,意外な真実が解明された。一方,筆者は,中部電力の最終報告書1)が公表された直後の2006年10月31日,損傷したタービンを見学するために,再度,浜岡5号機の現場(中央制御室/原子炉格納容器内/タービン室)を訪問したのである。
 本稿は,中部電力の最終報告書に記された事実関係を基に筆者の調査結果を加味し,全体的な吟味/考察を行った結果をまとめたものである。その視点は,事故の後付けによる批判的検討ではなく,工学理論を基に,タービンを設計した時点の約10年前における世界のタービン設計技術レベルを解明することと,同じ最新鋭のABWRである東京電力・柏崎刈羽原子力発電所6号機/7号機の米General Electric(GE)社製タービンとの比較を通して,今回の問題は回避できたか否かを明らかにすることに置かれている。

日経ものづくり 事故は語る
図●浜岡5号機のシステムの系統概略図(a),問題の低圧タービン(b)