日経ものづくり トヨタ生産方式の真髄と新展開

第12回

資材購買管理部門への展開

五十嵐 瞭
中部産業連盟 常務理事
主幹コンサルタント
小林 啓子
同連盟東京本部 主任コンサルタント

資材購買管理部門は,ともすると納期遅れ対応などの後追い業務に多くの時間が費やされてしまう。トヨタ生産方式に基づく手法を取り入れれば時間に余裕が生まれ,改善業務などが進展する。分業化による平準化,発注手続きの標準化,発注伝票の見える化など,資材購買管理部門が取り組むべき手法を解説する。(本誌)


 今回は,資材購買管理部門を対象に,トヨタ生産方式の考え方と展開について,事例を交えながら記述する。

業務が属人化されムダ発生
 まず,資材購買管理部門が業務を進める上で抱えている問題点を次のように整理してみた。

問題(1)業務を発注担当者任せで,大ロットまとめ発注,まとめ納入,先行手配などが行われ,発注漏れ,発注忘れ,過剰発注が発生している。また,安全期間を付加した納期や,業者の言いなりの納期で,調達リードタイムが長くなっている。
問題(2)定期発注時期や伝票処理の締め日直前に仕事を集中させているため,その期間は仕事が多く,ミスが発生している。
問題(3)製造着手段階で欠品が発見されてから,慌てて納期遅れの処置をしているため定常的な生産遅れが発生し,業者への確認,督促業務が毎日の主体業務になっている。
問題(4)後追い的な納期督促業務に追われて,コストダウンや調達リードタイム短縮などの改善活動が思うように進まず,目標が達成できていない。
問題(5)資材購買管理業務に必要な力量があいまいであり教育体制も十分整備されていないため,自らの努力と経験で業務が遂行されている。
問題(6)受注情報や新製品開発情報,設計変更情報などの伝達が迅速かつ的確でないため,コミュニケーション不足,発注遅れ,発注ミスが発生している。

 このように,資材購買管理部門には多くのムダや問題点があり,本来の業務をやり遂げていない状態が多い。本来の業務は「生産に必要なときに,良い品質の原材料・部品を必要なだけ安く購買し,材料費の削減を図り,原材料・部品の過剰在庫と死蔵在庫の発生を防止し,在庫の削減を図ること」である。
 製造現場は,観察することで問題点が大抵見つけられる。しかし,管理間接部門である資材購買管理部門は,仕事のやり方や進捗管理が属人化され,ムダや問題点が潜在化してしまい,改善が進んでいない。