日経ものづくり アイデアコーナー

保持力が強いステアリングコラム 【日本精工】

溝を切ったくさびをV字形ホルダに差し込む

 ステアリングホイール(ハンドル)の位置を運転者の体格に合わせたり,乗降時に持ち上げたりできる機構は,快適性を向上させる。このため,ハンドル位置を上下(チルト)および前後(テレスコピック)に調整する機構を内蔵するステアリングコラムが増えている。
 一方,衝突安全性を高めるため,ステアリングコラムにも衝突エネルギを吸収する能力が求められている。ただし,展開したエアバッグが設計通りの性能を発揮するためには,衝突時にはハンドルの姿勢を保持することが大切だ。エアバッグの動作面を確保し,ハンドルによるエネルギの吸収を安定させられるからだ。
 このためステアリングコラムのチルト/テレスコ調整機構には,簡単に広い範囲で調整でき,固定時にはしっかりと保持される―という性能が求められる。そこで日本精工は,チルト/テレスコ調整のしやすさと保持力の強さを両立したロック機構「WEDGE GEAR」を開発した(図)。

日経ものづくり アイデアコーナー1
図●ステアリングコラム
ロック解除レバーを押し下げるとチルトロックおよびテレスコロックが解除され,ハンドルの位置(上下,前後)を調整できるようになる。


回転角度に制限のないコネクタ 【日本モレックス】

軸受のコロ表面を接点として使う

 携帯電話機の本体部分と液晶ディスプレイ部分を接続するコネクタとしては,FPCコネクタや細線同軸コネクタなどが使われている。最近では,ヒンジ部分が折り畳み方向だけでなく,その垂直方向に回転する機種も増えてきた。
 ただし,ケーブルがねじれるために最大回転角度は90°や180°といった制限がある。この結果,初期状態から1方向にしか回転させられないといった課題があった。
 そこで日本モレックスは,回転角度に制限がない「ロータリーコネクタ」を開発した。このコネクタを使えば,どの状態からでも好きな方向に回転させられる。
 開発したコネクタの構造は,コロ軸受と似ている(図)。内輪と外輪,それぞれが基板につながる導体となり,これらをコロ(転動体)に相当するリング状の接点でつなぐ構造である。リング状の接点は電鋳で作製した。軸受のように,内側と外側の導体が相対的な角度を自由に変えても,リング状接点は両導体の間を転がりながら移動するため,常に通電した状態を保てる。

日経ものづくり アイデアコーナー2
図●回転角に制限のないコネクタ
外側の導体と内側の導体の間にリング状の接点を配置した転がり軸受のような構造。


常に持ちやすいドライバ 【ベッセル】

鉄球の重さでグリップの端が回転

 工具のグリップ形状は,握った状態での手のひらにフィットしている方が扱いやすい。例えば,後端の一部分を盛り上げた形状のグリップでは,この盛り上がった部分が小指の付け根付近となるように握ると手の中で工具が安定する(図)。
 しかし,このように軸対称でない形状のグリップでは,手にした直後が最適な状態にあるとは限らない。その結果,最適な状態となるように工具を持ち直したり,持ちにくいままの状態で使ったりすることになってしまう。
 そこでベッセル(本社大阪市)は,グリップの後端部を回転可能にし,そこに鉄球を埋め込んだドライバ「Gグリップ」を開発した。グリップの固定部分は軸対称だが,持ちやすくするためにグリップの後端部は軸対称でなくなっている。
 Gグリップの固定部分をつかんで持ち上げると,鉄球の質量によってグリップの後端部分が回転し,鉄球が下側にくる。つまり,鉄球の位置は小指の付け根付近になる。
 鉄球を埋め込んだ位置はちょうど,グリップが盛り上がった部分。この盛り上がり部分が小指の付け根となるように握るのが最も安定する。つまり,手にした瞬間はグリップ後端の状態が最適でなくとも,手にした直後,自動的に最も握りやすい状態になる。

日経ものづくり アイデアコーナー3
図●手のひらにフィットするドライバ
グリップの後端部の一部分を高くすることで,握りやすくした。