日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

佐藤 廣士
神戸製鋼所 代表取締役副社長

ものづくりを円滑に進めるには
上流から下流に仕掛けていく

さとう・ひろし
1970年神戸製鋼所入社,1993年技術開発本部材料研究所長,1995年技術開発本部開発企画部長,1996年取締役,1999年常務執行役員,2003年専務取締役,2004年代表取締役副社長,現在に至る。2003年春には,海水淡水化装置に使うチタンパイプの防食技術で,学術功績者らに贈られる紫綬褒章を受章した。

「BRICsの台頭により一般汎用品の競争が激化しているため,特徴のある高付加価値製品に一層注力する必要がある」。こう考える神戸製鋼所の収益の柱になりつつあるのが,「オンリーワン製品」だ。これは,研究/開発部門だけ,あるいは工場だけでは到底生み出せるものではない。研究/開発,生産部門に加え,営業から本社スタッフまでが連携する,総合的なものづくりの力が必要だ。それを高めるキーワードが「バリアフリー」である。

 当社では2006~2008年度グループ中期経営計画の中で「ものづくり精神の強化」を掲げていますが,そのものづくりに関して私が今一番感じているのは,ものづくりは「ものづくり」であって「物造り」ではないということなんです。これは東京大学の藤本隆宏先生もおっしゃっていますが,ニュアンスとして,漢字の「物造り」がまさにものを造ることにフォーカスしているのに対し,ひらがなの「ものづくり」の方はものを造ることはもちろん,そのために必要な技術,知識,ノウハウ,システム,ユーザーとの連携度など周辺を広く包含しています。つまり,ものづくりにおいてはここを決して忘れてはならないんです。
 私は当社の社員に「我々が今一生懸命考えなければならないのは,市場のことだ」としきりに言っています。お客様が何を欲しているのか,何をどのようにしたいのか,それをきちんと正確に把握して対応する,それこそがメーカーである,と。そこで当社の場合には,発展途上国との激しい競争にさらされている一般汎用品より,特徴のある品質のもの,特徴のある性質のものに注力しているんです。いわゆる「オンリーワン製品」ですね。

部署間の垣根を低くする「バリアフリー」
 そのオンリーワン製品をきちんと生産し出荷し納品していくという一連のものづくりの過程において,お客様に主に接するのは技術サービスや営業の人たちであり,特徴のある品質や特徴のある性質を考えるのは研究/開発の人たちです。それが本当にオンリーワン,すなわち「たった一つのこと」であるためには,特許に代表される知的財産を扱う人たちがかかわるし,きちんとものを造って提供するには生産や技術サービスの人たちがかかわる。そしていざ市場に送り出すとなれば,安全や環境にも最大限配慮しなければなりません。すると,そこには本社スタッフが関連してきます。
 このように,ものづくりは単に生産/納品する工場だけの活動ではなく,研究開発から知的財産,技術サービス,営業,本社スタッフまですべてを巻き込んだ総合的な企業活動といえます。さらに,もう少し欲をいえば,それぞれの事柄や行動は科学的に裏付けられたものでなければならない。すると,大学とのつながりが重要になる。我々の行動や考えが科学的に正しいかどうかを検証してもらうために。