日経ものづくり 材料力学マンダラ

第23巻
接触応力の計算に間違いはないか

広島大学大学院教授 沢 俊行


●「ヘルツの接触理論」が構築されたのは,実に120年前
●しかし設計の現場では,同理論をよりどころに使い続ける
●同理論による計算結果とFEMによる解析結果を比較すると・・・


 機械の中では,部品同士が接触することが多々あります。歯車では歯がかみ合うときに歯と歯が接触しますし,玉軸受けでは球と内外輪が接触します。リベットならリベットと穴が,ボルトなら部品同士はもとより,ボルトの頭/ナットの座面と被締め付け物が確実に接触しています(図)。
 こうした機械を設計する上で重要なのは,接触する部分の応力分布や最大応力を設計段階できちんと計算し把握しておくこと。ところが,この接触応力は非常に厄介なのです。特に,見えない部分の接触応力分布の測定が困難な上,正確に推定することさえ難しい。
 そんな中,接触に関する問題を解く上でよりどころとされているのが,1881年にドイツのHertzが構築した「ヘルツの接触理論」です。実際,この理論は多くの実用問題に適用されていますが,日本の大学ではあまり教えていません。とはいえ,設計の現場ではこの種の問題と必ず遭遇する。そこでヘルツの接触理論の結果だけを使う。これが現状だと思います。
 かなり前のことになりますが,ある国際会議に出席したときのこと。ヘルツの接触理論を用いた研究が発表されていましたので,私はその妥当性について質問しました。「120年以上も前に構築されたヘルツの接触理論を,今なお信じて使い続けていいのか」と。これに対し,発表者からは明確な回答を得ることはできませんでした。
 上述した通り,接触応力の測定が難しいために,ヘルツの接触理論が正しいか否か,これまでほとんど検証されずにきました。逆に言えば,設計現場ではそれを正しいとやみくもに信じて適用し続けてきたわけですが,もし正しくなかったら・・・。

日経ものづくり
図●接触部分を持つ機械
(a)歯車。歯と歯が接触する。(b)玉軸受け。球と内外輪が当たる。(c)リベット。リベットが穴の内面に当たる。(d)ボルト締結体。ボルトの頭/ナットの座面と被締め付け物が接触する。