日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

松浦 元男
樹研工業 代表取締役

設備が古いのに
精神論だけが先行してませんか

まつうら・もとお
大学卒業後5年間サラリーマンとして勤務し,1965年に樹研工業を設立。1998年に10万分の1gの歯車,2002年には100万分の1gの歯車を開発。

世界最小の歯車の製作や,新入社員の先着順採用でユニークさが際立つ。 ともすると「東の岡野工業,西の樹研工業」と称されることもある。 話題の派手さの割には,経営は堅実そのもの。 飲み会やゴルフはしないが,最新鋭の設備には思い切ってお金を使う。 その最新設備を導入する上で日本には大きな問題がある,と訴える。

 日本の製造業は今,状態はそんなに良くないんですよ。調子がいいとかいったって,例えばトヨタ(自動車)とかホンダとか,一部の大企業だけでしょ。松下(電器産業)さんだってV字回復しましたけど,ついこの前,石油温風機では大変なことがありましたね。松下さんに限りませんが,良くないことが続いているのは一企業の問題というより,日本の製造業全体が抱えている問題だと思いますけどね。
 状態が良くないから皆さん余計に,文化人から大学の先生から,ものづくりのDNAとか,中国や韓国とは文化が違うんだとか言うんです。そんなことないですよ。中国や韓国だって変わりません。「戦時中の大和魂」と同じ,実体のない精神論にすぎません。

とにかく最新設備の導入を
 何が悪いかっていいますとね,まず設備が古いことです。金型屋さんの場合,現在は平均的に中国の方が日本よりも進んだ設備を使ってますよ。設備が古いのに文化で勝てるだなんて,全く戦時中の大和魂と同じ言い方です。
 うちでも研究開発用に,最先端の機械をどんどん入れています。そこで問題になるのが,償却に10年かかることなんですね。それではどうしても世界の動きに遅れを取ってしまう。1年とか2年とか,お金のあるときに償却してしまうとか,任意にやらせてほしいんですけどね。10年前の機械を研究開発に使って,それで「安土桃山時代以来のものづくり文化」なんて唱えても仕方がないでしょう。税制は早くなんとかしてほしいと思っています。