日経ものづくり 特集

 日本経済の景気拡大局面は5年近く続き,史上最高の長さになったと言われる。国内製造業は再び強さを発揮しつつあり,コスト削減などの「生き残り策」から,技術面や業務面での「革新」に目を向け始めた。
 近い将来,その革新はどのような方向に進んでいくのか。まず技術革新は,部品や材料の分野を中心に引き続き活発に続く。例えば日本精工は,ベアリングの耐久性を向上させるために,発生している現象を分子レベルで解明。最終製品のメーカーでも,自動車では燃料電池車,電機ではフラットパネル・ディスプレイなどの技術革新,研究開発が進む。
 一方で本誌の取材に対して,技術を念頭に置いた業務革新を主眼に答えた企業も多い。例えばリコー,村田製作所は内製化を進めることで技術力を強化。日立製作所グループの日立GSTや旭硝子は人づくりを最大のテーマと位置付けた。
 日本のものづくりを特徴付けるのは,その視点の長期性であろう。短期間で大きく儲けることを否定するわけではないが,革新を積み重ねていって継続的に利益を上げる。今後3年~5年間の成長の芽は,すでに育ち始めている。(編集部)

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トヨタ自動車
強みはしばらくハイブリッド
内製,調達の使い分けに戦略

 ここ数年,トヨタ自動車が持つイメージは“ハイブリッド車の第一人者”だった。実際にはトップメーカーらしく安全,情報通信など全技術分野に抜かりなく力を配分しているのだが「ハイブリッド」のイメージは強烈だ。
 1997年にハイブリッド車「プリウス」が登場して以来,「そう難しい技術ではない」「すぐに追い付かれる」とささやかれてきた。確かに要素技術それぞれに目新しいことはない(図)。ところが9年たった現在,これといった競合車種は現れていない。
 ホンダはホンダなりの判断なのだが,変速機を持たないタイプを選択した。これはトヨタの用語では既に“卒業”した「マイルドハイブリッド」であり,競合とは言いにくい。日産自動車は限定発売の域を出ていないし,トヨタからのシステム購入を検討するなど軸が定まらない。海外各社はハイブリッドのメリットが見えにくいこともあるのだが,本腰が入らない。結果としてトヨタの独走を許している。

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図●ハイブリッド車の構成部品
エンジン,モータ,変速機と並べれば,もともとあったものばかりだ。



松下電器産業(プラズマテレビ事業)
プラズマでシェア1位を維持
輝度向上と低コストを徹底

 「ものづくり立社」。2006年6月に松下電器産業社長に就任した大坪文雄氏のこの言葉が,同社の今後の姿勢を端的に示している。その姿勢とは,ものづくりに徹してより競争力の高い製品を生み出し続け,競合企業を打ち負かして世界的な高収益企業へと変貌することだ。
 同社は2001年度に創業以来の赤字転落を経験し,当時社長だった中村夫氏(現在は会長)の指揮の下,大規模な経営改革を実施*1。「破壊と創造」のスローガンを掲げ,同社の体質を「重くて遅い」ものから「軽くて速い」ものへと転換させた。中村氏は21世紀のデジタル時代に勝ち残るには,トップを走らなければならないと考える。デジタル家電は「先行者が市場の7割を独占し,2位以下のメーカーは残りのわずか3割を分け合う」(同氏)という優勝劣敗の厳しい世界だからだ。トップを行くには,意思決定のスピードを速める必要がある。そう考えるが故の体質転換だった。

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図●プラズマテレビ受像機
松下電器産業が今後最も力を入れる製品の一つ。



キヤノン
「心地よさ」の理解が価値を創出
デジカメの知能化でピント操作

 ますます競争が激しくなるデジタルカメラ市場に,キヤノンは(1)デジタルカメラ単体での価値を高める(2)顧客層を拡大する(3)プリンタなどほかの機器との連携を強化し,新たな価値を生み出す――という戦略で臨む。常に最新の機能をユーザーに提供しつつ,世界全体で増える需要も取りこぼさないという,いわば王道だ。
 (1)の例は,人物の顔を自動検出する「フェイスキャッチテクノロジー」だ。2006年9月に発売した「IXY DIGITAL 900 IS」など4機種で採用している(図)。新開発の画像処理LSI「DIGIC ?V」で実現した。
 同テクノロジーを利用した「顔優先AF」機能は,撮影時に人間の顔を検出し,自動的に焦点を定めるというもの。いわゆる「ピンぼけ」を防げるわけだ。これ以外に,人物の顔の明るさを最適化する「顔優先AE」機能もある。

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図●キヤノンのデジタルカメラ「IXY DIGITAL 900 IS」(a)と,画像処理LSI「DIGIC III」(b)
被写体の中から人物の顔を自動検出し,優先的に合焦する「顔優先AF」機能を採用。「ピンぼけ」を防げる。