日経ものづくり 設計者のための解析入門

第9回 樹脂流動解析編(下)

量産時の品質の安定を考慮し
公差内のわずかな違いを評価

今回は成形メーカーの視点から樹脂流動解析のポイントについて解説してもらう。製品メーカーや金型メーカーが検討を重ねて製品や金型の仕様を決めているとはいえ,成形メーカーも解析によって早期に仕様を検討し,製品メーカーや金型メーカーと擦り合わせを行っていくことが求められている。(本誌)

高村 秋生
八海クリエイツ 製造本部金型製造グループ

 成形メーカーが考慮すべき重要な点は,製品の量産性である。もちろん製品メーカーや金型メーカーでも製品設計や金型設計の段階で,部品の成形のしやすさやロバスト性を予測して設計している。
 しかし,大量生産を考えるとその評価は十分とはいえないのが実情だ。成形メーカーとしては,自社の持つ成形機の特徴や成形条件のノウハウなどを盛り込んだ上で,製品メーカーや金型メーカーと協力しながら,金型や製品形状,成形条件を詰めていく必要がある。そのために樹脂流動解析が強力な武器となるのである。

設計値では成形できても
 量産時の品質で気を付けなくてはならないのが寸法。成形収縮を考慮した上で,製品設計上の公差の範囲内で部品を安定して成形できるよう金型を設計し,さらには成形条件を検討しなくてはならない。
 特に注意が必要なのが薄肉の製品。金型設計上は公差として許容されていても,わずかな寸法の違いによって成形性が悪化して,樹脂が充填されない領域が残る「ショートショット」と呼ばれる欠陥が生じかねない。成形メーカーとしては,あらかじめ解析によって公差範囲内でその成形性を評価し,金型設計の妥当性を検証しておくべきである。

日経ものづくり
図●寸法に敏感な薄肉モデル
SDメモリーカード筐体のモデル。全体に薄肉である上に,厚みの差が10倍以上あるため成形は難しい。緑色の部分はランナ部。