日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

萩原 茂喜
ダイキン工業 取締役兼執行役員
(空調生産本部長)

現場の情報が頭にあれば
幹部会議に資料は要らない

はぎわら・しげき
1981年ダイキン工業入社,2005年同執行役員,2006年同取締役兼執行役員,現在に至る。

受注後3日で家庭用エアコンを出荷できる体制「ハイサイクル生産」を確立。 約3年前からトヨタ自動車の指導を受け,「1秒1mmの改善」を続けている。 これを支えているのが,人同士,面と向かっての対話を重視する考え方。 空調機の開発でも複雑な擦り合わせが必要であり,対話によるやりとりが必要。 幹部も頻繁に,資料なしで話し合いをするという。

 よその会社より会話を多くしよう,と心掛けています。良いものを造るには,開発も製造も,フェース・ツー・フェースで情報を伝えることが基本だと思います。その点でいうと,最近何でも電子メールで済ませてしまうことが増えているのは,大変気になります。現場で3分話せばコミュニケーションできることを,わざわざ資料を準備して送り付けて,ややこしくしていないかと。
 会議もよくやります。ただし,いわゆる御前会議みたいなものは嫌いなんですね,この会社は。幹部が開く会議は,できるだけ資料を使わずに課題は何か,どうすればいいかを討論します。資料がないと時間がかかるように思うかもしれませんが,本来幹部が考えるようなことは細かなデータがなくたって決められるものなんです。根本的にどういうことをやろうか,と大枠を相談するわけですから。
 例えば工場でものづくりの改革をしようと,みんな生き生きと働く会社にしようと考えるとします。ではそのためにどういう教育をしたらよいかは,会話で方向付けできるわけですね。ただ実際に,教育の内容やカリキュラムを決めたりするには詳細な資料が要ります。だから,幹部は資料なくいいかげんに決めるということではなくて,根本的なことを議論するのが幹部の役目だと,そういう考えを持っています。

現場にはもっと入りたい
 ただしその前提として,幹部が現場の事実を現場でつかむ努力をすべきだと考えています。変な言い方ですけど部長には,くどくどと説明は求めない。現場にいる人に直接聞いて,ナマの情報を拾う努力をするわけです。三現主義が大事とよくいいますが,これを徹底することはもっと必要だと思っていまして,物事を幹部が会議室だけで決めて現場に指示を出すだけになっていないだろうか,商品の改良について商品を見ずに議論していないだろうか,このあたりは常に省みるようにしています。
 現在トヨタ自動車社長の渡辺捷昭氏が副社長だった時代に,当社へ指導に来てくださいました。渡辺さんは現場に行って,まさにわれわれとはしゃべらずに現場の人間と話をするんですよ。「それを30cm横にずらせば1秒稼げるよ」なんてことを言っていただけるわけです。それがトヨタの強みだと思いますし,われわれも学んでいきたいところです。