日経ものづくり 直言

模倣されないものづくり
愚直に組織能力を鍛えるべし

神戸大学 教授
延岡 健太郎


 優れた商品を開発しても,競合相手からすぐに同じような商品が出てきてしまい,結局あまりもうからない,という事例が増えてきた。また,一つの商品がヒットしたとしても,それが企業の持続的な業績には結び付きにくくなった。このような経営環境の変化に対応すべく,経営学では,商品ではなく組織能力での差別化を目指した戦略論が主流になっている。
 1994年の世界的なベストセラー「コア・コンピタンス経営―未来への競争戦略」(Gary Hamel,C. K. Prahalad著,原題Competing for the Future)は,そのような経営学の発展の初期段階を代表したものだった。その後も,組織能力の強み(コンピタンス)をベースにした経営の重要性は高まるばかりである。
 個別商品の成否を中心とした経営は,プロ野球でいえば,毎試合の勝ち負けに一喜一憂するような経営だ。実は,一つの勝ちそのものにあまり意味はない。最下位チームでも3割は勝っている。同様に,一つの商品開発が成功したといっても,弱いチームの1勝に近い意味しかない場合も多い。

日経ものづくり 直言
延岡 健太郎
1981年マツダ入社。1994年神戸大学助教授,1999年から現職。2001年から経済産業研究所ファカルティフェロー兼任。経営学博士(MIT)。