日経ものづくり ものづくりインタビュー

私が考えるものづくり

伊藤 潔
TDK 副社長執行役員

国内に技術を蓄積できないなら
海外には事業を出しません

いとう・きよし
1963(昭和38)年4月TDK入社,1992年セラミック事業本部積層部品事業部積層コンデンサ部長,1994年電子デバイス事業本部コンデンサ事業部長,1999年電子部品事業本部コンデンサ事業部長兼企画部長,2000年取締役電子部品事業本部コンデンサ事業部長,2001年取締役コンデンサ事業部長,同年取締役回路デバイスビジネスグループゼネラルマネージャー,2002年常務執行役員・回路デバイスビジネスグループゼネラルマネージャー兼材料事業部長,2004年専務執行役員・回路デバイスビジネスグループ ゼネラルマネージャー,2005年専務執行役員・製造担当SCMグループゼネラルマネージャー, 2006年副社長・製造担当・SCMグループゼネラルマネージャー,現在に至る。

もはや粒というより粉に近い,といえるほど小さくなったコンデンサなどの電子部品。 高級品は日本企業がほとんど独占している状態だ。 印刷技術の応用や,シートの張り重ねで微細な積層構造を形成していく。 しかし良質の部品を造るには,塗ったり張ったり焼いたり,さまざまな要素技術の連携が必要。 この連携が,日本であればこそ可能になるという。

 積層チップコンデンサはTDKを含めて,日本企業の独壇場です。特に電極と誘電体を500層も重ねるような高級品は,世界の生産量の85~90%が日本ですから。そういう状況から,日本独特の技術のように見えますけど,もともとは米国の技術なんです。35年前,米American Components社と提携して技術導入したのが始まりでした。
 今では0402(0.4×0.2mm)と呼ばれるサイズにまで小型化しましたが,もともと円板にリード線が付いた形のラジアル型コンデンサと特性は全く変わりません。印刷技術で電極と誘電体を塗り重ねたり,あらかじめシート状にした誘電体に電極を印刷して積層したりして造ります。携帯電話機の中には300個も使われ,世界中で1カ月に800億個も造られています。
 もともと米国生まれの技術を,実際にものにしているのは日本人なわけです。

中国にも出しようがなかった
 良質なコンデンサを造るには,材料も設備も良質なものが必要です。材料がいくら良くても設備が悪ければ良いコンデンサはできません。逆に設備が良くても,材料が悪ければどうしようもありません。
 設備も,誘電体や導体のペーストをどう練るか,塗り重ねていくか,どうやって薄いシートにするか,端子の銀ペーストをどう塗るか,どう乾燥させるか,どう焼成させるか,どう検査するかとか,すべての要素技術がそろわないとうまくいきません。どの技術も数値で明確に表現できたり,何かで明確にコントロールできたりすることは少なく,微妙なバランスで成立するものなのです。目で見て分かるようなものではありません。