日経ものづくり 開発の鉄人

第27回 直径5μmの力センサ

「開発の鉄人」こと 多喜 義彦

押すと光る・・・そんな素材のサンプル供給が始まった。 産業技術総合研究所と大光炉材が開発中の変形発光材料。 「磨けば光る」などという悠長で間接的なものではない。 力を加えた瞬間にパッと光り,力がなくなればパッと消える。 力の強さと光の強さの線形性も良い。 今,用途開発のお手伝いをしているところだ。


 紫外線とか電子線,X線,放射線,電界,化学反応・・・さまざまなエネルギを光に変換する材料は,蛍光材料をはじめとして,いくらでもある。力から光に変換する「応力発光」と呼ばれる現象もある。しかし,それを生かした材料は意外なことに実用になっていない。

地震の時に空が光る
 応力発光は摩擦,衝撃,圧縮,引っ張りなどの機械的な外力によって発光する現象。実用にはなっていないが,話としては時々聞く。地震のときに空が光ったなんて話もある。“都市伝説”みたいなことで片付けられちゃうことが多い。実はあれは立派な事実でね,無機物質の半分は破壊発光の性質を持つといわれるんだ。もちろん「空」が光るんじゃなくて,地面からの光が反射するんだけどね。砂糖を破壊して発光することなんて,400年前から分かっている。
 この応力発光に着目したのが産業技術総合研究所の徐超男主任研究員。「超男」といっても女性だよ。徐さんが見つけたのは,地震のような大きな外力じゃなくて,弾性域くらいの小さな外力でも発光する現象だ。破壊発光に対して変形発光と呼んでいる(図)。
 昔から,放射線を照射したアルカリハライドとか,高分子の一部に変形発光が見られることは分かっていた。ただし,これは発光の強度がものすごく小さくてね,肉眼で分かるようなものではない。
 徐さんたちは,無機セラミックスの中に,変形発光を起こすものがあると狙いをつけ,数百種類という幅広い材料を試してみた。見つかった数種類は,高度に結晶構造を制御した無機結晶の骨格の中に,発光中心になる元素を固溶させたものだ。

日経ものづくり 開発の鉄人
図●各種の応力発光
集合の外側から内側に向けて開発が進んできた。