日経ものづくり 特報

電車もダイレクト・ドライブに
駆動力を無駄なく伝える



DD(ダイレクト・ドライブ,直接駆動)電車の実用化が近づいた。 長い間使ってきた減速機の歯車をなくしたことで, 動力の損失をなくし,騒音を減らし,メンテナンスを楽にした。 高水準のサービスと低コストを両立したDD。 鉄道会社の将来を支える技術になるか。

 JR東日本,新習志野駅の先にある京葉車両センター。最近,奇妙な電車を見掛ける。京葉線や外房線を走って,居合わせた乗客を驚かせる。時には京葉線の東京駅まで出てくる。
 名前は「E331系」(図)。同社が開発し,長期の運転を続けて試験中。純粋の試作車ではなく量産先行車。全長,ドア数などを,いつでも今の車両と置き換えられるように設計してある。近いうちに乗客として乗れるかもしれない。
 「奇妙」に見える理由は,その短さ。普通の通勤電車が1両に片側4扉であるのに対して3扉。長さは20mに対して13mしかない。短い車両の間に台車がある「連節車」だ。

車軸と同じ回転数で回るモータ
 技術上,最大の特徴はむしろモータにある。モータはDD(ダイレクト・モータ,直接駆動)であり,減速機がない。
 減速機の伝達効率は97.5%。鉄道会社が支払う動力費の2.5%が,減速機の歯面と軸受で熱になって消えている。これをなくせば輸送の原価を低減できる。
 騒音低減の効果も大きい。DD化でモータの回転数が1/7に落ちたことに加え,後述するように密閉化で冷却風がなくなったからだ。「E331系」の元となった試作車「E993系」(通称AC Train)で計測したところ,現役の最新型である「E231系」と比べて車内で10dB,車外で5dB静かになった。その静けさをJR東日本鉄道事業本部運輸車両部副課長の菊池隆寛氏は「惰力で走る間はモータのない客車並み」と表現する。普通はこれに減速機の歯車音,冷却風の音が加わる。ただし,加速中に磁歪音が出ることは普通の電車と同様に避けられない。

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図●外房線で試運転中の「E331系」