日経ものづくり 直言

顧客ニーズの頭打ち
「意味的価値」の創造で打開せよ

神戸大学 教授
延岡 健太郎


 日本企業がものづくりの総合力で世界のトップを争っていることは間違いない。商品の機能や品質は超一流である。問題なのは,ものづくりの素晴しさが利益に結び付かないことだ。
 原因としてここで指摘したいのは,「顧客ニーズの頭打ち」である。パソコンや携帯電話機などでは,日本企業が本気で取り組めば,他国ではまねできない小型化や高品質を実現できる。しかし残念ながら,世界の多くの顧客にとって,東アジアの企業でも造ることのできる商品で十分なのだ。日本企業のものづくりがいくら優れていても,それを評価して高い対価を支払ってもらえなくては意味がない。
 ごく当たり前のことなのだが,心底理解するのがなかなか難しい。簡単な例でいえば,ハンバーガーやカレーライスで十分満足する子供の世界では,いくら超一流の料理人が腕を振るっても仕方がないということだ。
 自動車とデジタル家電の違いも最近よく議論される。優れた商品を開発・製造できることでは同じなのに,自動車はもうかってデジタル家電はもうからない。「顧客ニーズの頭打ち」は,この差の説明にもなっている。

日経ものづくり 直言
延岡 健太郎
1981年マツダ入社。1994年神戸大学助教授,1999年から現職。2001年から経済産業研究所ファカルティフェロー兼任。経営学博士(MIT)。