日経ものづくり タグチメソッド

商品企画七つ道具

最終回
顧客のサンプル評価で詳細決定
品質表から商品化の指針把握

神田 範明
成城大学 経済学部経営学科 教授

顧客の客観的な評価から商品像を明確にし,それを実現する優れたアイデアを導き出しても,ここで手を抜くと,それは無駄になりかねない。商品には,価格と品質などのトレードオフがある。それをにらみつつ消費者の意向に沿った最適なコンセプトを見いだし,それを開発へ橋渡しできるように具体的な要求品質に変換していくことが重要だ。 (本誌)

 顧客ニーズとそれに見合った商品像を見極め,卓抜なアイデアを豊富に出して精選する(STEP 0~5)。この段階まで進むと,多くのケースでは商品コンセプトのイメージが大体見えてくる。しかし,ここで手を抜くと,これまでの苦労が台無しになる。
 例えば「丸くてキャラクターをふんだんに使ったかわいいパソコン」を女性向きに新発売したいとしよう(本当にあり得る話である)。大ざっぱな方向は検証できているのだが,以下のような項目についてはどうだろうか。

(1) 丸いとはどの程度がいいのか。従来の角張ったものと対比して確実に売れるのか
(2) キャラクターは何がいいのか。それによって受け方が大幅に違う
(3) 使いやすさが損なわれては無意味であるが,これをどのような形で維持,または進化させるか
 これらの判断は,なかなか難しいところといえよう。さらに,次の項目についてはどうだろうか。
(4) 価格はいくらに設定すれば売れるのか,いくらだと売れないのか
 これは,極めて重大な問題といえる。しかも,これらの課題はいずれも同時に解決しなければヒット商品など望めないというもの。企画担当者の苦悩は想像に余りある。
 商品企画において多くの企業が失敗に陥る一つの要因は,こうしたコンセプトの最適化を軽く考え,企画担当者の判断でこれらの項目を決定し,製造に踏み切ってしまうことである。
 そこで,商品企画七つ道具(P7)が重視するのが,仕上げの段階における「コンジョイント分析」の活用である。詳しくは後述するが,それにより,商品コンセプトの魅力を左右する複数の要素(形,機能,価格など)について,顧客の購入意向を最大にする最適な値の組み合わせを容易に決めることができ,なおかつ事前に購入意向の数値予測が可能となる。つまり,この商品を市場に投入したときに「顧客が皆喜んで購入しようとするのか」あるいは「まあまあのレベルで購入したくなるか」が判明する。これは非常に有効な手法である。