日経ものづくり 特報

高収益オムロンが
上海でJIT生産するワケ

勝ち残りを懸けた「脱・国内回帰」戦略



FA機器事業で営業利益率16%超の高収益をたたき出すオムロンが,同事業の抜本的な改革を断行した。日本の工場を再編し,中国の上海市に開発・生産拠点を建設。売れ筋の製品を対象に,最先端の技術や設備を積極的に投入して,ジャスト・イン・タイム生産で世界の各市場にその製品を供給する。狙いは,コスト競争力を一段と引き上げること。中国シフトによる地の利はもはや大前提。勝負どころは,最新の生産技術や手法,設備の導入で得られる効率化にあると同社は考える。日本の製造業で進む工場の「国内回帰」の流れにあえて逆行する背景には,日本の最新工場と同水準の工場を中国でつくらなければ,もはや世界市場で勝ち残れないという,先を見据えた同社の危機感がある。 (近岡 裕)

Part 1 営業利益率20%への秘策

中国市場は世界一の激戦区
上海工場でなければ競合に勝てない

 「国際競争力のあるものづくりの姿を描いた。売れ筋である汎用製品のコスト競争力をかなり高めなければ,世界の競合企業に勝てない」。オムロン執行役員副社長でインダストリアルオートメーションビジネスカンパニー(IAB)社長の立石文雄氏は,オムロンが中国上海市に新会社「オムロン(上海)有限公司(OMS)」を立ち上げた理由をこう語る。
 IABが手掛ける事業は,オムロンの売り上げの約4割を占めるFA機器事業。同事業では一般に,まず先進的な取り組みをする顧客向けに,高度な機能を搭載した製品を造る。しばらくたてば高度な機能も標準的になってきて,幅広く製品に搭載される。OMSではより大きな需要が見込める,こうした標準的な機能を搭載する汎用製品を扱うのである。

日本ではコスト競争力に限界
 もちろん,日本を含む外資系企業が中国に工場を新設することは珍しくない。だが,その多くは今なお,「中国工場を単なる生産機能の拠点としてしか見ていない」(OMS董事長 兼 総経理の小林雪生氏)。この「中国シフトさえすれば製造コストを安くできる」という考えとは,オムロンは一線を画す。
 同社がOMSを立ち上げた狙いは,中国という日本よりも低コストの地に,製品設計から顧客サービスまでのものづくりの全工程を持つ拠点をつくること。その上で,部品や材料の購買・調達から生産,物流工程において,最新の生産技術や手法,設備を積極的に投入する。これにより,世界一のコスト競争力を身に付けて,世界のライバルに勝つ─ことだ(図)。
 日本の製造業には今,工場の「国内回帰」という風が吹いている。生産拠点としての日本の利点を再評価しながら,グローバルでの生産体制を見直す動きだ。そして「国内工場の生き残り」を現実のものとするために,購買・調達から生産,物流に至る工程に最新の生産技術や手法,設備を導入してコスト削減に努めている。

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図●オムロン(上海)有限公司(OMS)の機能
売れ筋製品を対象として,製品設計から,購買調達,生産,物流,顧客サービスまでのものづくりの全工程を担う拠点。生産した製品は世界の五つの市場で販売する。

Part 2 世界をにらむコスト競争力

売れ筋製品はコストが生命線
FMIやVMI,混流生産を積極投入

 オムロン(上海)有限公司,通称,OMS。その名の通り,オムロンが中国上海市の新興工業地域である浦東新区に設立した,工場を主体とする新会社だ。センサやプログラマブル・ロジック・コントローラ(PLC),温度調節器などのFA機器を扱う(図)。中でも,標準的な機能を持つ売れ筋製品,つまり,ボリュームゾーンの製品を生産して世界中に供給する。
 ボリュームゾーンの製品は,常に価格競争の圧力にさらされており,それはFA機器も例外ではない。従って,この領域で世界の競合企業との競争を制するために,最も重要な条件の一つがコスト競争力だ。

カギはリードタイムの短縮
 そのために,まず,オムロンはOMSを単なる製造子会社ではなく,商品設計から工程設計,購買調達,生産,品質保証,製品物流,顧客サービスといった,ものづくりの全工程が担える会社とした。いわば,売れ筋製品の「グローバル中核拠点」だ。新しい製品を設計開発・生産して,世界中にいる各顧客に届けることに加えて,購入前後での顧客へのサービス業務も担当する。すべての機能を集中させることから,業務が効率的に遂行でき,その分,コスト面でも有利に作用する。
 だが,それだけではない。オムロンの取り組みでさらに目を引くのは,OMSに最新の生産技術や手法,設備を積極的に投入したことだ。新しい日本工場が導入するような,非常に高いコスト競争力を発揮し得るものばかりである。これこそが,OMSの最大の特徴といえる。
 OMSが造る売れ筋製品はボリュームゾーンに位置するとはいえ,その種類は決して少なくない。「現時点で約3700種類」(OMS董事長 兼 総経理の小林雪生氏)にも上り,さらには,世界中の需要に応えることから,生産量は大きく変動する。従って,OMSは「変種変量生産」を行うのだ。日本を含む他の外資系企業では,依然として中国工場を「少品種大量生産」の拠点と位置付けるところが多く,この点でもOMSは特異であるといえる。
 世界の競合企業に勝つには,多くの種類の製品を世界各地の顧客に即納する体制を築く必要がある。しかも,この一連の作業をどこよりも低コストで遂行しなければならない─。これがOMSに与えられた課題だ。
 こうした高い壁を乗り越えるカギは,「徹底したリードタイムの短縮にある」(小林氏)と考えたオムロンは,OMSでジャスト・イン・タイム(JIT)生産に乗りだした。

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図●オムロン(上海)有限公司(OMS)で生産するFA機器