日経ものづくり 特報

ホットな自動車材料

厳しい要求に加工技術のアシスト


「軽量化」「低コスト化」「環境配慮」─。自動車向け材料に求められる永遠の課題だ。年々高まる要求レベルに対し,材料メーカー,部品メーカー,そして自動車メーカーが日々研鑽を積んでいる。2006年5月24日~26日に開催された「人とくるまのテクノロジー展2006」では,その成果が例年以上に目立った。そこで本誌特別取材班は冒頭の三つの視点に立ち,会場のパシフィコ横浜で最新の自動車材料と加工技術を追った。 (「人とくるまのテクノロジー展2006」特別取材班)

Part 1 金属材料

鋼で1ピースホイールを造る
ワンチャックですべてが終了

 独WF MASCHINENBAU UND BLECHFORMTECHNIK社は,鋼板から1ピースホイールを造る製法を開発し,試作品を会場に持ち込んだ(図)。最大の狙いは溶接,検査といった工程をなくすことによるコスト低減だ。

できないはずの鋼製1ピース
 ホイールはタイヤを固定するリムと,リムとハブを結ぶディスクの2部品を造り,両者を接合する2ピース構造が主流だ。アルミニウム合金のように鋳造できるものには1ピースもあるが,鋼製の1ピースはこれが初めて。2ピースより安くて軽い。
 素材は鋼製の円板。これでホイールの形を造ろうとすれば,一般にはスプリット法で加工するしかない。円板を回転させ,外周の端面にこれも回転するローラを当てて2方向に割っていく工法。プーリにベルト溝を成形するときによく使う手法だ。
 問題はホイールの内側と外側が対称でないこと。ホイールは,ハブの外側にねじで固定するため,タイヤ幅の中心よりもずっと外側にディスクがある。スプリット法で造ると,リムは内側,外側が同じように延びていくから,長すぎた外側を切断する必要がある。工程は増えるし,歩留まりも下がる。これは避けたい。
 ローラを板厚の中心からずれた場所に押し付けて内側,外側に流れる材料の量を非対称にすることもできるが,あまりずらすと素材がうまく流れず,肉厚を制御しきれない。このため鋼製の1ピースホイールは不可能とされていた。

日経ものづくり 特報
図●試作した1ピースホイール

Part 2 磁性材料

小さく効率の良いモータを求め
組織制御で磁束をムダなく流す

 「実用化までに5年かかった」と語る愛知製鋼が展示したのは,トヨタ自動車が「クラウン」の助手席と「エスティマ」の運転席に採用したシートモータ(図)。リクライニングや前後方向の移動,座面の高さ調整などを電動で行うための動力源だ。特徴はコンパクトであること。従来のシートモータと比べて,50%の小型化と36%の軽量化を実現した。「4個搭載した場合,シートは合計で1kg近く軽くなる」(同社)。
 シートモータはアスモ(本社静岡県湖西市)が生産し,愛知製鋼は磁石を圧入したヨークをアスモに提供する。コンパクト化の大きなカギを握るのは,愛知製鋼が開発したネオジム・鉄・ボロン系ボンド磁石「マグファイン25」。製造工程において,水素の圧力と温度を制御すると,異方性に富んだ微細化組織ができることを同社は発見。その結果,磁力を高め,最大磁気エネルギ積を199kJ/m3まで向上させた。これに対して従来は,フェライト焼結磁石を使い,最大磁気エネルギ積は32 kJ/m3と低かった。

日経ものづくり 特報
図●トヨタ自動車が採用したシートとシートモータ
(a)シート。リクライニングや座面を調整するための駆動源にシートモータを使った。(b)リクライニングの駆動源部分。シートモータが見える。(c)シートモータの新旧比較。右が新しいシートモータで,左が従来品。愛知製鋼の強力な希土類ボンド磁石「マグファイン25」を使うことで,新しいモータは従来品よりも小さく軽くなった。

Part 3 樹脂材料

活用が広がる植物由来の樹脂
ホンダとマツダがそれぞれ出展

 化石資源の節約やCO2排出量削減の観点から,近年になって高い注目を集めているのが植物由来の樹脂だ。トヨタ自動車や三菱自動車などに続いて,ホンダとマツダも植物由来の樹脂に関する新しい技術を開発,適用例を展示した。
 ホンダは,自動車内装部品の表皮材として使用できる繊維(バイオファブリック)を開発。会場ではシート表皮への適用例を展示し,ドアやルーフなどの表皮,フロアマット材などへの適用も視野に入れている。3年以内に発売する新型燃料電池車で採用し,その後,2009年モデルから新型車に順次採用を目指す。
 原料は,とうもろこしを分解,糖化し,微生物によって発酵させることで製造する1-3PDO(プロパンジオール)と,石油成分のテレフタル酸を合成したPPT(ポリプロピレンテレフタレート)というポリエステル素材(図)。分子構造はPET(ポリエチレンテレフタレート)に似ているが,C(炭素)が一つ多いため,屈曲したポリマ構造になっているという。伸び特性や伸び回復率のいずれも,PETより優れる。

日経ものづくり 特報
図●PPTの製造プロセス
とうもろこしを分解,糖化し,微生物によって発酵させることで製造する1-3PDO(プロパンジオール)と,石油成分のテレフタル酸を合成する。