日経ものづくり 事故は語る

緊急レポート
「ゆりかもめ」ハブ破断事故
長期運休のやむなきに至った理由

佐藤国仁
佐藤R&D代表取締役・日本技術士会「技術士による製造物責任技術相談センター」会員

1995年に開業したゆりかもめは,東京都心と臨海副都心を16駅で結ぶ全長14.7kmの新交通システム。そこで事故が起きたのは,2006年4月14日金曜日,17時2分ごろ。6両編成の電車が「船の科学館」駅を出発した直後,走行輪が外れて車体を大きく揺らせ,火花を発する異常状態となって緊急停止したのである。翌15日朝,事故車両がクレーンで撤去されると,2日間にわたり完全に運行を停止。17日に臨時ダイヤで一部運行を開始したものの,完全復旧したのは事故発生から5日後の19日だった。

 事故の原因が,車輪のタイヤホイールを支えるハブの破断によるものと判明したのは,翌朝の車両引き上げの後である。新交通システムでは鉄道と違いゴムタイヤを使用しているため,自動車と同様に,車軸とタイヤホイールを結合するハブが採用されている。
 車軸,ハブ,タイヤホイールの構造は図の通り。事故車両では,ハブのフランジの根本A部に円周状の割れが生じ,ハブ本体からフランジとタイヤホイールがすっぽりと外れてしまったのである。ハブはダクタイル鋳鉄製で,航空・鉄道事故調査委員会の調べでは破断面の2割,10数cmにわたってさびが生じていた。つまり,ハブの割れは繰り返し応力による疲労が原因で,最終破断に至るはるか以前から進行していたものと見られる。
 幸い人的被害をもたらさなかったとはいえ,ハブは車両にとって最重要保安部品。それを営業運転中に破損させたことは由々しき事態で,二度と繰り返してはならない。加えて今回の事故では,新たに二つの問題が浮かび上がった。
 第一は,事故発生以前に国土交通省が新交通システムのハブの亀裂にかかわる「インシデントレポート」を2回出していたにもかかわらず,ゆりかもめ事業者はそれを有効に生かせなかったこと。第二は,長期の運行停止により公共交通機関としての責務を放棄したことである。

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図●破損した車軸,ハブ,タイヤホイールの正面図
(a)正常時。タイヤホイールはハブに結合されている。(b)破損時。ハブのA部が円周状に割れたため,そこに固定されていたタイヤホールが外れる格好となった。